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【岐阜】セルフレジで偽造バーコードの詐欺行為 被告人は気が弱い?それとも... #145(電子計算機使用詐欺)

※当記事は有料対応となってますが、結論まで無料でお読みいただけます。

裁判ライター「普通」が誕生したのは、ここ3年くらいの話ですが、実は古くは20年前の学生時代からこの名前を使っていまして。

よく由来を聞かれるのですが、とある漫画のキャラから取っています。個性的な学生が揃う学生生活の中で、そのキャラがどんなエピソードを話しても「普通」と評されてしまい、「普通って言うな!」と突っ込むのがお決まりの流れ。私はこれがとても好きで。

「普通」という、世の多数層と見ることもできるワードが、決してプラスの意味だけでない場合もあるというのが響いたんですよね。

そこから私は「普通とはなんぞや」という探求を続けて今にいたるのです。
そうでないと被告人が主張する「普通の感覚」に耳を傾けられないんですよね。いやぁ、今回は苦労したなぁ...。

はじめに ~ただひたすら真っ直ぐに~

罪名 :電子計算機使用詐欺
被告人:60代の男性
傍聴席:7人(第1回公判開始時)

本日の舞台は岐阜地方裁判所ニュースで事件を見て、どうしても行きたくなったものがありまして行ってきました。
大阪駅からだと新幹線等使わずで3時間弱といったところでしょうか。駅から20分近く歩くのですが、その行程がひたすら直進のみという珍しくもあり、猪突猛進な僕好みの裁判所です。

ニュースで私の目を引きましたが、正直派手な事件ではない今回の話。傍聴席は50席ほどある裁判員裁判ができる法廷でしたが、傍聴席はすかすか。
というか、今更ながら自分もよく行ったなという事件の注目度。

身柄拘束はされておらず、スーツを着てて、目つきがキリリとした被告人。
スーツを着ているけど、ザ・サラリーマンという感じでなく、昔気質の職人さんという印象。
目つきは鋭いけど、やや伏し目がちで不安そうな様子も伺わせたのは、傍聴した後だからでなく最初から感じていたと思う、多分。


事件の概要(起訴状の要約)

被告人はあらかじめ用意した、偽造の商品バーコードを用いて、

A店にて、パン等11点合計5,068円相当の商品に、各商品に合計860円となる別のバーコードを貼り付け、セルフレジで会計を行うに際しその商品バーコードが正しいように精算処理に用いるPCに虚偽の記録を残させ、差額である4,262円の支払いを免れ、財産上不法の利益を得た。


A店での犯行と同日、別のB店において、靴下等11点5,881円相当の商品に、各商品に合計448円となる別のバーコードを貼り付け、セルフレジで会計を行うに際しその商品バーコードが正しいように精算処理に用いるPCに虚偽の記録を残させ、差額である5,433円の支払いを免れ、財産上不法の利益を得た。

同種の事件、最近全国で報道されているんですよね。
電子計算機使用詐欺と聞くと、自分の中でもはっきり知識を固め切れていないものの、ついつい足が動いちゃう私。
山口県阿武町の事件から、同罪の知識は増えていない体たらくぶりですが、この罪名の案件は多く見たい気概でやっております。


今回の件、法律素人的には、電子計算機使用詐欺で問題ないように思うけど、これが有人レジだったら、罪名は詐欺に変わったりするのかな?
高齢者に対して遠隔で、ATMで誤った振り込みをさせる話に似ている気がします。教えて偉い人。

弁護側はいずれの事実も認めました。


採用された証拠類 ~金銭的被害はもちろんそれ以外も~

検察官証拠(弁護人全同意)
被告人は、住居地にて妻と子2人と住んでいる。事件当時は働いていたが、事件をきっかけに自主退職して、現在は無職。不起訴処分となった窃盗の前歴あり。

犯行の動機(きっかけ?)は息子の借金返済とそれに伴う生活費の節約のため。プリンターを独自に購入し、スマホのアプリで別のバーコードを撮影したりして画像データを作成し、それを貼付しレジに通す犯行を繰り返した。
事件時の緊張感、そしてそれが達成された際の解放感を感じ、犯行を合計100回前後は繰り返していたと供述している。

事件が発覚したのは、その日2件目の犯行に入ったB店にて。
以前より不正会計の恐れある人物としてチェックされており、その日はバーコードを商品に貼り付けている様子を店員が目撃していた。被告人がセルフレジを通す際に、店員が商品とレジの記録を同時にチェックしていた。
会計後に声をかけるも否認。事務所に行く前にトイレに行きたいというので、店員もついていく。個室に入ったものの用を足す様子がないので店員が上から覗いたら、トイレのタンクにものを隠すのを目撃。
ひとまず事務所に通し、話を聞くも「知らない」と供述。その間、タンクの中を探すとバーコードが入ったポーチが見つかり、警察を呼ぶ。

警察へ向かう際、被告人は現場とは違う場にいた事情の知らない妻に連絡をする。
近いうちに家に警察が来るかもしれない点。そして、駐車場に停めた車内に、犯行で使ったプリンターがあるので水没させる指示と、その直前でA店で盗んだ偽造バーコード付商品を家に回収するように指示した。
妻は当然驚く。B店は、窃盗前歴の件で出入り禁止になっていると知っていたからだ。さらに、警察と聞いて怪しんだものの、指示に従った。水没がどのレベルでなされたかは不明。

購入品の一部には、偽造バーコードが貼られていないものもあった。これは、元々安価なのと、普通のも混ぜることでバレたときに言い逃れができると思ったため。警察に声かけられる前後で、スマホに入っていたアプリやバーコード画像は消したが、一部が残ってしまった。

単純な話かと思ったら、かなり悪質な話でした。
起訴されているのは2件とは言え、弁護側も認めている被告人述べるところの余罪に関しては約100件前後。ちなみにその100件云々の箇所は不同意にしても良さそうですが、被告人のスマホの電子決済からも常習性を疑う証拠があったので、そのためなのかと思います。

薄利多売の小売店の万引き問題は深刻というのはもちろんですが、具体的な金額的損失だけでなく、レジを通す際にリアルタイムでチェックしたり、トイレまで追いかけたりと、本当なら人手を抑えるセルフレジのはずが、より必要な対応を倍増させているのも悪質です。

ただ、気になるんですけど、セルフレジを原因とする被害ってどれほどあるんでしょうね。それでもセルフ化が加速しているのは、人件費との対比で利益増になっているんでしょうが、今回の事件を見ると、発覚していない事件も多いんだろうなと感じます。まんま持っていく人もいるだろうし。

あとやはり目につくのが、かたくなな事件の否認と、実は意外と珍しい証拠隠滅を促した事象でしょうか。

(証拠隠滅)
第百四条 他人の刑事事件に関する証拠を隠滅し、偽造し、若しくは変造し、又は偽造若しくは変造の証拠を使用した者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。

刑法104条

奥さんの方はこれにあたらないのかなと疑問に思ったのですが、恐らく証拠の隠滅の故意を断定できなかったのと、

(親族による犯罪に関する特例)
前二条の罪については、犯人又は逃走した者の親族がこれらの者の利益のために犯したときは、その刑を免除することができる。

刑法105条

これを適用し、無理くりにやらなくてもということなのでしょう。犯人隠避罪にも同様のがありますよね。
とはいえ、プリンターを水没させるって...小渕優子がパソコンにドリルで穴を開けた以来の衝撃的な工作なのですが。

そしてその妻が証人に立ちました。


証人尋問 ~夫の収入は把握していません~

尋問の前に弁護側書証の取調
・被告人の兄による嘆願書…今後の監督を約束するので社会生活を送らせて欲しい
・被害2店舗への反省文
愛知県弁護士会に贖罪寄付として50万円を行った事実

弁護士が愛知の方なのか、愛知県弁護士会に贖罪寄付。これは事件のあった岐阜ではないのか...。


さて、証人尋問。
嘘をつかない宣誓をするのですが、多くの裁判所では

宣誓 良心に従って真実を述べ 何事も隠さず偽りを述べないことを誓います

というのですが、岐阜では、完全に聞き取れたわけでないですが

宣誓 良心に従って本当のことを申します 知ってることを隠しません ないことを申しません

とだいぶ違うのが印象的でした。どうしてここまで違うのか...。
まぁ、どちらでもいいですわ、証人さん本当のことをお願いしますね。

その証人は被告人の奥さん。
やはり、どうしても気になるのはプリンターの水没の判断。いつその話になるんだろうと思っていたところ、まずは同種の前歴の話に。

弁「前回の不起訴処分になった事件、行ってしまったことにはどう思っていましたか」
証「強い驚きと怒りを覚えました」

弁「その原因はなんと聞いていましたか?」
証「お正月のための食材を買ってたのですが、それを置いてるうちに悪くなったのでどうにかしようということでした」

うーん、本当のことを言ってねとお願いしたばかりだけど、本当だからいいってもんでないと感じるのが傍聴人の我儘。

これが不思議なもんで、被告人の供述なら「それは理由にならないだろ」という感想なのですが、その言葉を聞いたという証人の証言となると「え、あなたそれを信じたの?」という感想になります。
割と早々に雲行きが怪しくなってきた気がします。

前回の犯行は衝動的なものであり、今回の再犯を防げなかった理由は夫婦間のコミュニケーションの少なさと答える証人。さらに、

弁「今回の事件の理由はなんと思っていますか」
証「家計が逼迫しており、支出を抑えようとしたのかと。また血糖値が悪く、甘いものを食べられないので、買って解消してる面があると聞いています」

100回くらい犯行を行わないと家計が成り立たないなら、もっと根本的なところを見直してください。あえての、病気の件は触れない僕の優しさ。

起訴事実は2件だけなので、それだけなら衝動的な何かという言い分も通じるかもしれませんが、なんというか、やはり夫婦間のコミュニケーションが充分でなかったと感じさせる内容。

そして、それをさらに端的に突いてきた検察官。

検「奥さんも仕事してますが、買い物は旦那さんとどっちが多く?」
証「ほぼ夫です」

検「家計逼迫ということで、収入があまり多くない割に買ってくる商品が多いと思ったりは」
証「冷蔵庫の何買ったかまで見てないのと、夫の具体的収入は知らないので」

検「家計が苦しいと言ってますが、家の総収入は把握していないと」
証「はい」

もちろんね、支払いの分業などで別々の会計で成り立っていた部分はあるんでしょうけど、総収入知らずに苦しい苦しいって言うのは、原因わからずもがいていたってこと?総収入わからなければ、支出もどこまで抑えたらいいかわからないと思うんですけど。
それすらのコミュニケーションも十分でなかったとしたら、被告人が調書で言ってたストレス発散的な意味合いも信憑性を増す気がしたんですが、この証人尋問ではその点は特に語られず。

検「今後、監督とは何をするんですか」
証「今後一切、一人で買い物をさせません、家計は個別でなく一括で管理します」

検「もし旦那さんから、プリンターの水没とか、よくわからない指示を受けたら」
証「今回は、言われるがままやってしまいましたが、もうしません」

検「もうしないだけですか?」
証「どういうことかチェックもしますし、警察にも通報します」

そのほかにも、被告人のスマホに子どものセキュリティに用いるアプリを入れるなどするとのこと。結局、人手が割かれたスーパーだけでなく、家庭内でも人にチェックの時間を使わせてしまいました。
有効的かはともかく、起きる可能性に対する対処として考えているのはわかるんですが、したらバレる状況でなく、そもそもさせない方策がないように感じちゃいました。

最後に裁判官。

裁「電話で、警察が来る、プリンターを水につけるって言われ、怪しいなと思いませんか、普通」
証「頭の片隅には恐れとしてあった気がするんですが、多分パニックになってしまい、あまり覚えていないんです」

まぁフォローするわけじゃないけど、いきなり旦那がプリンターを水没せいと言ったら、狂ったのかと思ってそりゃパニックにはなるわな。まぁそれで実行には至らないんだけどな、普通。
パソコンにドリルもパニックの末なんだろうな、きっと。


被告人質問 ~~

犯行自体が大胆なら、その後の対処も相当の大胆さ。当時の被告人の心境がやはり気になります。

弁「前回の不起訴で反省したはずでは」
被「物価上昇で経済的に困り、ストレスもあり、一時の安易な解決をと思ってしまいました」

弁「今回の犯行を思いついたのは」
被「以前、セルフレジってごまかせるんだって思う行為を他者がしてるのを見て衝動的に」

それで「うわぁ...」じゃなくて、「俺も!」って思う人との差よな。犯罪とわかりながら実行した理由として「心の弱さ、甘さ」を挙げました。

この「心の弱さ、甘さ」というワードはよく裁判で出てきて、失礼だけど、これ言っておけばいいんでしょ感はある。確かに、してはいけないとわかってるのにその支払いを免れたかったり、もうダメと思っていたのに前回成功したしで行為を行うのは、そのワードが表す心境とは理解する。
でも、その想像はこちらに委ねないで、もっと言語化して欲しい。もしくは弁護人にはそう促して欲しかった。被告人がどう思っているかがいまいちわからない。

弁「奥さんにプリンターの破壊などを依頼したのはなぜ」
被「パトカーに動揺してパニックになり、車の中を空っぽにしたいと思い」

弁「トイレでポーチを隠したのは」
被「持っているものを無くしたい思いで」

弁「どうして車を空っぽにしたり、持ってるものを無くしたいと」
被「証拠になると思って」

それはパニックって言葉じゃなく、普通に人の心理としてあり得る隠滅の気持ちだと思うんよな。
今後は、家庭で質素、倹約の生活をすることで再犯しないと誓約したのですが、先ほどの隠滅の心情や、実行してしまう気持ちの甘さなど、もう少し精神的な面での見直し、サポートが必要なのかなと。

失礼ながら、精神的な見直しの必要性を感じさせる質問を検察官から。

検「今回の事件のB店は元々、出入禁止のはずなのになぜ行ったのですか」
被「直接言われてないので、その認識がありませんでした

検「でも、奥さんは知ってましたよ」
被「じゃあ、記憶がなくなったのかも

気の弱さから来る反射的な防御本能なのか、また別のスキルなのか、とぼけスキルはなかなか。ただ、地味に声が震える感じもあったし、防御本能のようにも感じる。

検「一時の安易な解決って言ってましたが、相当な回数行ってて、これが一時ですか?
被「精神的な依存もありました」

検「衝動的にと言いますが、プリンターを買ったりしてますね」
被「きっかけは衝動的、そこからの依存もあり徐々に」

検「パトカーでパニックになって、奥さんにLINEしたり、それを消したり、アプリ消したり色々してますが、これもパニックの結果と」
被「はい」

弁護士会に贖罪寄付した50万円は、実際に店に行った回数を参考に額を算出したとのこと。だいたい1回5000円で100回で50万って計算っぽいです。

最後に裁判長が質問します。

裁「奥さんに指示した内容は証拠隠滅にあたると思わなかったの」
被「思ってないです。とりあえず目の前から消したかった

裁「目の前から何を消したいの」
被「そのもの

裁「プリンターも?」
被「はい

裁「なぜ?」
被「そこにあるのがイヤなんで」

裁「なぜイヤなんですか」
被「犯罪と自覚していたので」

それが証拠隠滅なのでは?と思うんですが、これに限らず全体的に思考とその言語化がかみ合っていないような印象を受けました。あまり得意ではないのかな。

裁「先ほど、精神的な依存という言葉がありましたが、スリルを味わいたいってこと?」
被「違います。毎回ドキドキしていました。ただ、レジを通して、外に出て「ふー」と息をするのが心地よくて」

一連見てて、確かに気の弱さというのはあるんだろうなと感じました。
しかし、プリンターを購入したりアプリで画像加工するなどは、気の弱さと違う執着を感じる話で、集中したらそれ一本になる視野の狭さがありました。
なんか関係者みんな、その点は炙り出せるんですが、被告人にその認識を持たせられるところまでいっておらず、とてもモヤモヤとしました。

求刑は懲役2年でした。


記事本編はここまでです。

今後も気になるニュースは全国各地追いかけようと思っています。
下記有料部分は、今後傍聴を予定している大阪からは遠方の裁判です。もし活動を応援していただける方は、こちらご支援賜れますと幸いです。

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