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【速報】聴覚障害者の裁判傍聴にパソコンテイク実現! しかし同時に見えた新たな壁 #135(ストーカー規制法違反)

まずは以下の記事をご覧くださいませ。

ざっくり言うと、大阪高裁でのストーカー規制法違反を傍聴希望されている方に聴覚障害の方がいらっしゃり、その方の傍聴希望の申請に基づき、大阪高裁がパソコンテイク通訳の同席を認め、かつ通訳の派遣を自治体に依頼をしたというものでした。

2024年9月30日11時という、まさしくつい先ほど当裁判が行われてきましたので、早速レポートいたします。


開廷まで 〜開廷30分前に…?〜

担当される中道弁護士の積極的な呼びかけなどもあり、開廷の15分くらい前には法廷前に一定数の傍聴人が開廷を待っていた。私も第一報を書いたという責任感から、30分前には法廷前で待機していた。

30分前?
法廷が開くのは10分前なのに、この人素人なの?と思われるかもしれないが、いたって正気も正気である。あと傍聴に関しては素人でもない。
一番乗りしたいのはもちろんだけど、機材を用いた新しい取り組みである以上、なにかしら動きがあるのではと踏んだわけだ。

そして読み通り、30分前には弁護人、被告人と他数名が法廷に入っていった。その後、中で何が行われたかは直接見れてはいないが、後の弁護人の公判内の発言によると音声の聞き取りのテストが行われたようであった。

法廷は201号法廷。
大阪高裁で普段使用する法廷と違い、100席近くあるかなり大きな法廷だ。弁護人によると、パソコンテイクの決定以前に決まっていたようなので、そこを考慮しての決定ではないだろうが、この裁判は何かが起こると感じての決定なのか。
とは言え気になるのが、大きな法廷が故の声の通りや、何かしら視認性を求められる証拠等が出た場合、支障は起きないかだけが気になった。

10分前には扉は開いた。
傍聴席は横には16席(5席・6席・5席)が並び、それが6列(一部5列)ある。
傍聴席の左最後尾に折りたたみの3人利用の机が臨時で置かれており、そこにパソコン通訳者2名と傍聴希望者がすでに着席していた。パソコンは、速記のための専用機器ではなく、通常のパソコンに見えた。恐らく単語登録などはしているだろうが詳細はわからない。
傍聴希望者の前にはディスプレイが置かれており、かなり大きな文字サイズで文字が打たれていた。

その左最後尾はもともと椅子は設置されていないので、並びとしては最後尾とほぼ同じ法廷との距離になる。普段は前列に座る私だが、この日は最後尾に並び、似た視点で傍聴を行った。他の裁判に比べても、傍聴席の後方を占める割合は大きかったと思う。


開廷前後のやりとり 〜発音がない場面も通訳〜

裁判官が入廷し挨拶を終えた。パソコンテイクの傍聴席がある以外、普段との変化はない。
大型モニターに何かしらの表示があるかもと思ったが、少なくともこの弁論回ではなかった。判決で使用されるか注目したい

開廷の言葉が発せられる前に、弁護人が口を開いた。いつもの流暢な話しぶりと異なり、かなりゆっくりした口調で、

開廷前にパソコンテイクとの音声テストを事前実施しました。今話しているくらいでも、少し早いくらいのようです。

(少しスピードを落とし)理解するにはこれくらいのようです。私も決められた開廷時間の中で時間配分を考えて弁論をいたしますので、開廷時には裁判官、検察官も、今私が話しているくらいのスピードとしていただくことを依頼いたします。

本題ではないが、これくらいのスピード(戦場カメラマン渡部陽一の過剰なゆっくりよりかは少し速いくらい)なら私の手書きメモでも、それなりに追いつくので助かる。

裁判長は、それに対して反応を示すでもなく「それでは開廷します」と開廷を宣言。
普段、高裁をあまり傍聴しないので、そのスピードが普段に比べてどうかはわからない。ただ、弁護人のスピードと比べると速いのは間違いない。

人定質問も終え、第一審に続き被害者特定事項について秘匿決定したことを告げる。それに異議を述べる弁護人。キタキタ。

理由として、本件は被害者とされる人物の証言が一審の判決でも全く考慮されていない。証拠の標目としても採用していないことからも、全く信用できないのは明らか。
氏名等秘匿により(責任感なく?)全く信用されない証言をすることになった原因となっており、明らかにしても問題ないと考えます。

検察官は異議には理由がないとの意見。
裁判官3名は話し合い。その間、お行儀悪いかもしれませんが、通訳申請者の前のパソコン画面を拝見すると、「話の中身は聞こえません 相談中」と書いてあった。音声として出ていなくても、その様子を届けるプロさに感動。それ以降、私はパソコン画面のチラ見はやめました。

裁「異議は棄却します」

弁「言うのは憚れるのですが、検察官はだいぶスピードを落としていただいています。裁判官の普段のスピードがわかりませんが、もう少しスピードを落としていただけると嬉しいです」

裁「(特に変わらず)手続きを進めます」

一言、ダメならダメ、必要ないなら必要ないと言ってくれてもいいのに、そこは譲らないというか考える素振りをこちらには見せない裁判官。パソコンテイクで見せてくれた歩み寄りはいずこへ。

続いて弁護人が事前申請していた法廷内録音許可申請について。これも裁判所は必要性を認めませんでした。
もちろん、異議を出すのですが、最初は「意見」という形で手を挙げ、裁判官は「異議ななら聞く」ということなので「仮定的異議」として意見を述べました。

私は裁判所が行っている録音を被告人、弁護人に聞かせてくれるなら異議は出しません。その意見は最高裁の書籍をもとにしている。録音を聞かせてくれないなら異議を出すし、聞かせてくれるならこの異議は取り下げます。

それに対して検察官の意見は「異議なら理由はない」と初めて聞いた意見。そりゃそうだよな、異議かどうかわかんないんだもん。検察官も言葉を選んで大変だ。
あ、ちなみに検察さんは話すスピードは緩めでした。

異議は棄却され、「それは聞かせてくれるから?」の問いについては、「この法廷で判断しない」との回答。実際の公判調書を見て、疑義があれば申請するかもというとこで、ひとまず審理続行。

ここで、被告人の体調に変化があり、法廷内で薬を飲むことを希望し、裁判長は了承。
しかし、そのタイミングで傍聴席で飲み物を飲む人物が。

裁判長「傍聴人は飲酒、、、失礼、飲食できません」

この箇所スルーしても良かったんですが、先日傍聴席で次の裁判を待つ被告人が傍聴席で飲酒している事態に遭遇したので、いつか書かせていただくための告知として採用。


控訴趣意について

審理が始まりました。
控訴趣意書を弁護人に読み上げる時間が取られました。「書面の通りでいいですね?」で済まされるケースも多いので、ここは配慮してのことなのか。

がっつりメモはしましたが、ここは要点に留めます。

控訴趣意

大きく分けて2点
①公判をしっかり公開していないと思われる手続き面
②被告人にストーカー規制法を適用した点

①-1 被告人と弁護人の録音を認めなかった
当事者には、裁判所記録は不正確と異議を述べる権利があるが、それなのに録音がなければ何をもとに異議を出せるというのか。メモは客観的に信頼ありとは認められず、異議を出すには録音は必要不可欠。
訴訟記録は一般閲覧ができる。不正確なものが公開されるということは公開の原則に反しているのではないか。

①-2 パソコン文字通訳をしなかった
大阪では初の事例かと思うので、戸惑うことはあったと思う。その中で、手書き通訳は許可してくれたが、しかしそれでは不十分なので控訴理由とする。
しかし高裁は認めてくださり、それは一審の不適切さを直接回復するものではないが、一審は一審なりに努力してくれたのも理解している。
希望者本人の言葉としても、実際に進んだのだからこれ以上批判する理由はないと考える。

なのでパソコンテイク出来なかったことの控訴理由はこの弁論をもって取り下げる。

② ストーカー適用について
同法の制定は、残忍な事件がきっかけで、国会審議でも、交際、復縁を求める際に発展しやすいとあった。

本件では交際を解消した相手に貸した金を返してもらえないための行為であり、同法が想定しているものと異なる。これが適用されるとなると、本来保護される必要もない相手が、手元に(金銭を残せる?)
額は10万円と少額で弁護士に依頼すれば費用倒れで、警察も動かない、なんとか自分でしようというのは納得できる考え。

本件が恨みに基づく行為であることは認めている。しかしそれは、恋愛感情、その他の感情を充足させるためでなく、金銭を返さない不誠実さによるものである。

検察官は「控訴は棄却されるべき」の意見。

その後、弁護人から1点の事実取調請求がなされ、検察官は同意したものの、裁判官が請求却下。ちょっと驚いた。
どうやら、請求したものが、法令適用に関する資料なので、わざわざ弁護人が出さんでもこっちでわかりますということらしい。

弁護人は、もちろん、書く必要があるのか、むしろなければ拍子抜け、もはや裁判官も待っていたのではないかとすら思われる異議

却下についてやや遺憾ではあります。できれば採用してほしいが、しなくてもこの論点をしっかり考慮した議論をしていただくことを希望します。

意見は変わることなく、そのまま結審して次回が判決に。

最後尾にいても、基本的に声の通りはそんなに問題はなかったとは思う。難しい法律用語をどこまで的確にタイピングできたかは疑問だが。

閉廷されると傍聴人の1人が声を挙げた。

「裁判長、もうちょっとゆっくり喋って欲しかったな!」

この声が裁判長に届いたか、そしてパソコンテイクを通じて申請者に届いた上での記録として残ったかは不明だ。
しかし、それを含めての法廷の描写と考えると、この傍聴人の叫びも私は残すことに決めた。

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