「弁護士は信用していません」被告人のSOSは法廷でどう響くのか #130(常習累犯窃盗)
さっそくですが、まずはこちらの動画をご覧ください、
と言って、いきなり1時間の動画視聴を薦める鬼畜こと普通です。
動画自体は後ほどでもいいので見てくださいね。今は、なぜ紹介したかだけ。
動画に出演していただいた藤原正範さんは、元家庭裁判所調査官で、現在は司法福祉に力を入れられている方。
家庭裁判所調査官ってのは、離婚などの家事調停や未成年の少年審判において、法律では完全に割り切れない背景事情や本人への説得などに膝を突き合わせる方。
司法福祉というのは、司法で裁かれる立場にある人、もしくはその恐れがある人に対して福祉の手を差し伸べることによって起こりうる犯罪の抑止に繋げようというもの。
膝を突き合わせて問題の解決に従事してきた藤原さんにとって、刑事裁判の淡々と進む感じに非常に違和感を覚え、福祉の力による社会貢献をということを考えられ、活動されている方なのです。
あれ、1時間の内容がここで凝縮された気がするぞ。
そんな藤原さんが関心を持ったのが「常習累犯窃盗」。
服役してもなお常習的に窃盗をする罪状というのは少年事件にはなく、また繰り返してしまう人というのは福祉ニーズがあるのではという関心なのだそう。なるほど、そういう見方ができるのか。
今回は、その藤原さんと一緒に傍聴してきた事例の紹介。
はじめに ~弁護人は信用ならない!~
被告人は僕と1つしか歳が変わらない男性。そんな歳の方のが被告人席に座ることは珍しくはないけど、すでに何度も服役をしているという事実には堪えるものがあります。
さて、裁判が始まるというところで、被告人がおもむろに手を挙げます。
確かにずっとそわそわしていると思ったけど、言いだすタイミングをはかっていたのですね。
たまに裁判が思う通りに進行されず「お前は解任やー!」となる方はいらっしゃいますし、法廷では見えないところでの解任事例もあるのでしょう。しかし、第1回目公判でこのような訴えを見るのは初めてでした。
などのやりとりが数分は続きました。その間、20~30代と見られる若い弁護人はずっと静かにしていました。ここでは弁護人はどうするのが正解なんでしょうね。
その裁判官とのやりとりを見てて、ややこしい人っぽいなと思いつつ、対応しくじっちゃったのかななどとも思っていたのですが、どうやら前科の時点でも同様に弁護人の解任請求を行ってきた人のようでした。
なので今回の弁護人がしくった訳ではないようです。何がそんな気に食わないのかはわかりませんが、特に理由を聞くなどもありません。
と、ある種被告人よりも強引な理屈で、裁判を進めることになりました。
事件の概要(起訴状の要約)
失礼ながら、身なりもそんなキレイでない(汚いほどでもない)被告人さん。この常習累犯窃盗という罪名と相まって、てっきり食料品や換金用の何かの窃盗かと思ったのですが、なかなかデカい金額の事件でした。
この罪名にはしてはそこそこ珍しい。
起訴事実に関しては、被告人、そして弁護人も認めました。
採用された証拠類 ~被害額32万はどうして特定できた?~
普通、検察官の証拠調べの際、被告人は弁護人の前の席に戻りますが、「席はこのままにしましょうか」という裁判官の配慮(?)で証言台のままで聞くことに。
その配慮ができるなら、被告人の心の声をもうちょい聞いてあげればいいのに。
意外とこの被害金額の根拠って難しいんですよね。仮に皆さんの財布が盗まれたとした場合に、被害の現金額って言えますか?
検察官が証拠作成する経緯はわからないですけど、当然、根拠がいります。被害額であったり、被害の点数などについて「根拠がない!」として争われるケースはあって、被害者の方の申告より少なく認定されることはままあるんです。
そりゃあ嘘をついたら論外ですけど、客観的な根拠がないとして、実際の被害額から泣き寝入りするのは何とも困りますよね。
あと集合ポストのダイヤル式ロックを外す手口というのもたまに見ます。防犯カメラにはバッチリ映っていたようですが、根気よくやり続けていたら開けられはしますからね。
盗まれた方が悪いとは言ってはいけませんが、大きなお金がある場所の鍵はやはり厳重にしないとと思ってしまいます。
僕、昔の自転車の鍵が10桁の数字で3桁くらい押すやつだったんですが、それ開けられて盗まれたことがあって。警察に行ったら「それ盗まれるから、前にもちゃんとしたカギをつけなきゃダメ」と言われて、なんか無性にムカついた記憶があります。
被告人質問 ~レールに乗せられた淡々とした質問~
弁護人からの証拠、証人尋問の請求はなし。すぐに被告人質問に入りました。
ずっと証言台から動かず、入廷後弁護人と目を合わさない被告人さん、果たしてどうなるのか。
実際は顔文字のような泣きそうな顔などせず、やれやれ感もなく、無表情を崩さなかった弁護人。法廷でお見かけしたことない方だったけど、次お会いすることがあれば、そのときの心情を是非お聞きしたいです。
ということで、検察官のターンに移りました。
検察官も冒頭に「私の質問もね、言いたくなかったら遠慮なく言ってくださいね」と優しい姿勢。いろいろ問題が指摘されることも増えている検察組織ですけど、公開の場で働かれている検察官は立派な人が多いと思いますよ。
もしくは、単純に面倒そうな人だと思って、証言拒否ならそれはそれで良しと思ったのか?
まずは、店の人に「一回り以上年下の人の店なのに申し訳ない」と謝罪。年上店主なら許容するとかないんで独特な謝り方ですが、まぁ謝ったという事実として。
動機としては、生活に困っていたから。生活保護だけじゃ足りないので、仕事を探したけど見つけられなかったというもの。
これもまたテンプレ的な回答。検察官が弁護人の代わりに必要事項をしっかり押さえてくれて優しいですが、具体的にそれが実現されるかの掘り下げまではなし。まぁそこまで求めるのもね。
逆に検察官としての「それ本当にやんの?」という掘り下げもなし。言い方悪いですが、この罪状、そして被告人の前科からも実刑は間違いなしなので、一通りの記録に残すためと感じさせる質問が続きます。
形式的と感じてしまう部分にやきもきはしますが、その役を誰が担うかというと、この法廷にいる方々とも違う気がするので、その点でもやきもちはします。
犯行事実をおさらいするような形で質問は終了。恐らく供述調書をなぞったような内容だったと思うので、せめて法廷の場では「もうやりませんか?」について本人の気持ちを引き出す質問はして欲しかった。
もしくは前回よりも重い刑を求刑するんでしょうから、「刑務所は辛くないの?」「そこに葛藤はなかったの?」という、より重い刑を科す必要性を感じさせる質問も欲しかったところ。
と思ったら裁判官が少し聞いてくれました。
ここまで基本的な確認をされると、これまでの裁判ではどんな主張を繰り広げられてきたのか気になるところ。
前回と同じ供述を繰り返しているようでは困りますし、もし新たに頑張る気になったのなら、その意思が続くようサポートが必須だと思いますし。
判決時の一幕
検察官からの求刑は懲役4年6月でした。前回の服役が懲役3年2月ですから、減軽される見込みを含めても大幅アップ。
弁護人は、取調べにも素直に応じて、ハローワークにも通ったが仕事が見つからず、躊躇しながらも行った犯行である点。ギャンブル依存を前向きに捉えている点などから減軽すべきと主張。
今回は質問回答を拒否されていたから、検察官証拠そのまんまの弁論意見になるのは仕方ないしにしても、ギャンブル依存の施設を探すの手伝ったくらいの弁護人証拠は欲しかったと思ったり。
と、開廷直後以降の、心の叫びを吐露。
裁判官も「私にもわかりません」と答えるだけで、手続き上はそうなのでしょうが、被告人の孤独さが如実に表れる形に。
人との接点の取り方であったり、空気感を読むのが苦手な方なのかな。今後、人を頼ると言っていましたが、うまくできるか心配です。
これまで、懲役2年、懲役2年8月、懲役3年2月と来ていたので、ほぼ法則通りの6ヶ月乗せられた感じです。これでは検察官がせっかく考えた求刑もなんだろうとは思っちゃいます。
一通り判決の宣告、説明が終わったところで、またも被告人が口を開きました。
これに対しても裁判官は、ここじゃ無理的な感じしか言わず、目の前での話し合いは実現しませんでしたが、果たしてどうなったのか。これまで心を開かなかった弁護人にSOSを出す気になったのか、別の意図があるのか。
申し訳ないですが、今後も被告人には前途多難な将来が予想できてしまいます。そんな中ではありますが、被告人当人、法曹三者の動きが断片でも見れる裁判。
傍聴席から見れるその光景から、みなさん一人一人の生活、常識と照らし合わせると感じるものがあると思うのです。他の人はこの裁判をどう思うのか、「反省してねぇな、またやるよ」なのか「もうしないために、もっとどうにかした方がいいんじゃないの?」だったりなんでもあると思うのです。
そういった皆さんの意見を知りたいなと感じる裁判でした。
今回の話を経て、冒頭で紹介したような司法福祉の在り方などに関心を持たれた方は、是非こちらの動画をご覧くださいませ。
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