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職業に貴賎なし!でもこの職業が罪を犯すと...(業務上横領) 傍聴小景#75前編

久々に前後編で取り扱いたいテーマに出会ってしまいました。
基本的な長文駄文を垂れ流すことに何の罪悪感もない私ですが、やはりガチ回は集中力が保てるよう、こういう施策も必要です。

さて、
実は私、過去に大学生の就職活動の支援みたいなことをしていたときがありまして。
そのとき、よく聞いたのは「私は勉強ばかりしてきて、それが社会でどう役に立つかとか考えたことない」とか「結局、コミュ力が強い人がいいところに行くんでしょう?」みたいな意見。

学生であれば社会全体を見渡すアドバイスをしたり、それまでの活動を整理してあげたりいくらでも手の打ちようはあります。ただ、この手の視点を社会に出て何十年も経つのになかなか持てない人がいます。
とは言え、そんなことは向き不向きがあるに決まっているので、それ自体は悪いことだと思いません。

ただ、自分の立ち位置を客観視しなければいけない場面において、自分一人でもがくだけでなく、正しく人に頼ることができるか。このことは、結構社会人として大切なスキルの一つだなと思うのです。

と、偉そうに書いているけど、私の社会での立ち位置ってどんなもんなんだろう。誰か頼らせて~(´;ω;`)


はじめに ~自信なさげに見える被告人の職業は~

罪名 :業務上横領
被告人:50代の男性
傍聴席:平均15人(合計4回)

何の気なしに入った法廷でしたが、傍聴席には「記者席」のシートがかけられ、テレビカメラがセットされていました。後に調べたら、事件時に複数社が報道しているような事件で、初公判の様子も報道されていました。
この記者席、2回目以降の公判では取り払われることも多いのですが、以降もしっかり席が確保され、きちんと記者さんも座っていました。かなり関心度が高い事件であることがわかります。
公判中にスマホいじっている人が多々おりましたが、そこには触れないで差し上げましょう。僕ちゃん優しい。

警備の人に連れられ、手錠をつけて入廷した被告人(3回目からは保釈)は、年齢以上に老いというか、疲れが出ているように感じる男性でした。背は小柄で、どこか自信なさげにも見えますし、なにか喪失感があるようにも見えますし。

「業務上横領」と聞いて思い浮かべるのは、会社のお金を使っちゃいました~みたいなもの。なので、意外と肌つやがいい被告人が多かったりしてます。しかし、今回の方はそういうタイプではなさそうです。

裁判官から、起訴されている人と目の前の人が同一人物かの確認をする人定質問が始まりました。

裁「お名前は?」
被「〇〇です」

裁「生年月日は?」
被「昭和〇〇年〇月〇日です」

裁「現住所は?」
被「兵庫県芦屋市〇〇」
ワイ(えぇとこ住んでまんなぁ)

裁「お仕事は?」
被「一応、弁護士です。今はしていませんが...」

弁護士だとー!!
実はたまにあるんですよね、弁護士さんの横領事件。ただニュースで見たことあるだけで、傍聴したことはなかったので驚きと興味が入り混じるスタート。
それにしても、「一応、弁護士です。今はしていませんが...」の声もとにかく小さかった。裁判にかけられていることを恥じて小さいのか、元から小さいのか。先の自信なさげな表情の印象と相まって、元から小さいのかなと予想します。


事件の概要(起訴状の要約) ~被害額は約550万~

被告人は弁護士として業務において以下の通り預かり金を自己の用途のため着服した
相続財産の遺留分減殺請求に伴い、相手から和解金として計4回預かった約530万円のうち、自身の報酬分を除いた約411万円
交通事故の損害賠償金として振り込まれた100万円
交通事故の示談金として振り込まれた45万円

合計556万円ものお金を横領しました。最近のニュースでは7,200万円を横領した疑いの方もいるので、ややインパクトが薄れなくもないのですが、立派な大金です。

ってか、7,200万円ってなんなんだよ...。

次に気になってくるところは「自己の用途」という部分です。バブリーに、夜の街に繰り出して、チャンねーに対して、ドンペリタワーやるなど、遊ぶ金欲しさだったのか、他の理由があるのか。


検察官が提出した証拠類 ~保釈金を使い込み!?~

被告人は大学を卒業したのち、今から約30年前に弁護士となり、後に独立。妻と子が3人いたが昨年離婚した。前科はない。

今回問われている事件以前にも預かり金の使い込みがあったが、父の助けなどがあり事なきを得ていた。しかしそれでも大口の顧客などもない状態ながら、家賃23万円の家に住むなど生活水準を見直すなどせず、生活に困窮していた。

事件の前に、別件刑事弁護の保釈金を使い込んでおり、今回横領したお金で補填した。①の事件では、計4回預かり金が振り込まれているが、その4回目に関しては追加の遺産が見つかったことによるもの。その事実を依頼人に伝えることなく、そのまんま着服した。
そのころには、妻子から学費の支払いの遅延がないようせっつかれ、事務所家賃も滞納、クレジットカード会社からの請求も溜まっていた。横領した用途は主に生活費、子どもの学費、消費者金融への返済。

事件の発覚は、依頼人がいつまでも金銭が払われない事態に本人や弁護士会に問い合わせを受けたことによって。

そりゃあ発覚しますわな。自転車操業の典型例なのに、この原因になっている生活見直しを行っていないから事態はどんどん悪化していくという。

昔やってたドラマで「夜逃げ屋本舗」というのがあって、金貸しが100万円借金ある人に対して、150万円をさらに貸してあげるんですよ。
「150万円のうち、100万円は返済してもらって、50万円を元手にあなたは頑張ればいい」と甘い言葉をかけるんですが、事務所では「あいつ自分の借金が100万から150万に増えたこと気づいていやがらねぇ。ひーひっひ」というテンプレがありました。それに近くて、なんだか久々に思い出しちゃいました。

っていうか、僕にはこのときの被告人と同じ場面になったことを想像すると無理だ~。布団に入ってるときに「明日、依頼人が事務所に来たらどうしよう」とか震えるのとか耐えられない。
やはり仕事は大きなトラブルになる前に手を打つのが大事だということがよくわかります。

それにしても、検察官の証拠で大筋はわかったものの、もうちょっと事情を知りたいところ。
具体的には、生活水準を見直さなかったという事実はわかるんですが、被告人自身にいわゆる費消する癖があったのかどうなのか。これによって心情はだいぶ変わりそうです。詳しくは追々わかっていきます。

検察官による起訴、請求した証拠の取り調べが終わって、次回の裁判で弁護側のターンとすることに。
しかしここで時間が空きました。約2ヶ月。何に時間を要したかというと、各被害者に被害弁償に奔走しているのでその時間が欲しいとのこと。
確かに額が大きいので放っておいたら実刑間違いなしですが、被害弁償を行えれば、ようやくなんとか闘えるラインには持っていけるかどうかというところ。でも、お金が足りなくて横領したのに、その被害弁償金をどうやって用意するのか疑問に残るところ。

そして2ヶ月空いたの公判。被告人は保釈され、少し身なりも綺麗になった気がします。
さて、この期間で弁護人は何を頑張ることができたのか。


弁護人が提出した証拠類 ~弁護士の意地と絆と~

①~③の被害者と示談が成立し、被害額全額を弁償する振り込みも完了。被告人に重い罪を望まないという宥恕する文言も付されている。

横領の背景として、ケガをしている被告人の顔写真

弁償のお金は、被告人がいくらか持っていた外貨を両替したもの、被告人の実母から250万円を借りたもの。被告人の同期の弁護士が支援委員会として65人から計300万以上を集めて支払った

被害額は全額弁償できて、示談も成立させたようです。弁護士の意地を見ました。
そのお金の出どころですが、被告人の手持ちちょこっととお母さん、そして同期の弁護士から支援とのこと。というか半分以上が弁護士からのものですね。

弁護士の絆すげぇー!と見ることもできると思いますが、なんか僕はそういうテンションにならなかったんですよね。
もちろん、このこと自体を全く悪いこととは思いません。こういう支援をしたいと思う被告人の人柄もあるんでしょうし、弁護人の方の呼びかけなどの必死な努力もあったのでしょう。結果は素晴らしいと思いますし、弁護方針として何も間違ってません。

僕も同期や同僚で困っている人がいたら、できるだけ支援はしたいと思います。でも、今回のケースだったら自分はするかなぁと、仲のいい知人の顔を思い浮かべて、いろんなケースを考えてみます。

・支援をして、今後も同じように接する
・支援はするけど、それは被害者がいるからなのでで、本人とは今回で縁を切る
・反省させるためここでは支援せず、社会復帰し自ら頭を下げ協力を仰ぎに来たら考える
・やったことが大きすぎて、支援もしないし、今回で縁を切る

これらの考えが冷たいのか、甘いのかは人によって違う気がします。
僕はやはり、特に弁護士という職業にありながらそのお金に手をつけたという事態は、他の事例に比べて深刻と捉えたということです。

あと気になるのは、ケガの写真ってやつね。この時点で、恐らく教育費やら家族にせっつかれてたという話もあるので、そのときのいざこざで生じたケガだと金田一を全巻読破している僕にはお見通しですが、この件もどこまで奥さんに対して責任の所在があるとするのかね。
職業柄、そういう事例もたくさん扱ってきただろうに、どうして同じように解決できなかったのか。という、やはり分かっているはずの「弁護士なのに」という点が事態の判断を難しくします。

いやぁ、難しい話だなぁ。だからこそ、弁護人もかなり手を尽くしているというところなんだろうなと思うし。このせめぎあいというか、言いたいことはわかるんだけど、なんだかなぁというモヤモヤ、久々にこの感覚に出会えました。


さて、前編の今回はここまで。次回の後編は証人尋問と被告人質問、そして最終的な判決までを紹介します。
一般視点として抱く、弁護士という職業に対する憧れ、イメージ。でも実際は一人の人間として抱える苦悩や弱さ。この対比で見たときに、裁判の結果はどのようになり、皆さんにはどのように届くのでしょうか。

それでは、また次回をお楽しみください。

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