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山口県で出会った歪な親子の事件 子は親を庇って「僕だけがやりました」 #133(窃盗)

山口地裁岩国支部へ行ってきました。

最近、こんな始まり方ばっかりですね。松山行ったり、京都行ったり。
今回の記事に関しては、この事件を目当てに行ったのでなくたまたま遭遇したものですが、最近はニュースを見て気になるものがあれば意識的に遠方でも出かけるようにしています。やはりニュースになるようなものだと事件のインパクトが強いので。

しかしながら、インパクトはあっても裁判で行われる事件の深堀りが微妙だとすると、記事にするかは微妙ではあります。
僕の記事の場合、だいたい4,000字以上がデフォなので(短くしたい気はあるんですが...)、タイトルや事件そのもののインパクトだけで釣って、内容が微妙だと落胆度合いが大きいだろうなと思うので、やはりちゃんと伝えたい!と思った裁判・事件を記事化するのです。

その点でいうと、今回の裁判は報道されていた事件としてのインパクトもあり、裁判での掘り下げ(僕が想像できる範囲として)もあったので印象深いものなのであります。


事件・裁判の概要 ~山口県の事件だけど被告人は福岡在住の謎~

今回、紹介する裁判は2件です。2件とは言っても、複数人物の共謀により同一の事件が行われていて、裁判は別々に行われたという話でした。特に支障がなければ複数人同時で同じ法廷で裁判が行われるのですが(最大6名が同時に名を連ねているのまでは見たことあり)、主張の違いなど理由によりバラバラに行われることもあるのです。
偶然、その2人が連続して裁判が行われたので傍聴することができたのです。

事件については、こちらからご覧ください。

福岡県在住の40代の夫婦、そして20代の子の3人による、山口県岩国市内のコンビニでの電子タバコ2点の窃盗という事件です。ここでは明確に書かれておりませんが、2店舗で2点の被害となります。

さて、まずは犯行を行ったのが夫婦に加え子の3人ということに驚かされます。確かに親子での犯行というのは見ないことはないのですが、やはりレアではあります。動機自体は、まぁ金目当てということでしょうけどなぜ親子で行うことになったのかという経緯はとても気になるところであります。

そしてニュースを見てて、気になるのがこの家族が福岡県在住とのこと。報道されている店舗は山口県岩国市のコンビニ。なぜ岩国で窃盗を行ったのかも気になります。家族旅行中だったんでしょうか。

ちなみに傍聴できた裁判は2件と書きました。
1件目が妻、2件目が息子の裁判なので、夫の裁判は傍聴できませんでした。絶対、夫の裁判大事だったろ…。でも、さすがに電子タバコ泥のために、岩国での傍聴おかわりのハードルは高過ぎた…。


妻の裁判の被告人質問 ~謎過ぎるジレンマを抱えての犯行~

妻の裁判は途中から入ったので、被告人質問しか聞けませんでした。2件目の息子の裁判で得られる情報で多少補完されるので、まずは妻の被告人質問から得られる情報で、皆さんも脳内でその状況を組み立ててみてください。

妻は40代の女性。見た目ちょっと気弱そうな、普通のおばちゃん。何か悪さしてそうかと聞かれたら、外見からはちょっと想像はしにくい。
でも、夫が強かったら、あまり反抗できずに従ってしまいそうな、こちらを不安にさせる何かは感じる。

弁護人は年配の男性。ふざけている訳ではないんだけど、なんか質問しながら含み笑いみたいなのをするのが気になる。まぁ、こういう人もたまにいるんですけどね。

弁「2店舗のコンビニで電子タバコを盗んだのは間違いないですね」
被「はい」

弁「事件店舗がファミリーマートだけなのは意味はあるの」
被「私にはわかりません」

弁「どうして事件のファミリーマートに?」
被「『行ってくれ』と言うので

どうやら妻が運転手で、夫が指示出しをしていたよう。あくまで従属的であったと主張したいようです。
とはいえ「行ってくれ」と言われてから、それを素直に聞いて行くことになった経緯がわからなく、従属的というより、夫のせいにしているというニュアンスを感じざるを得ない回答。
そして、この流れで驚きの内容が。

弁「報道では『中国地方、九州にかけて犯行を行い』とありますが、起訴以外にも余罪があるの?」
被「はい」

なんと驚くことに、山口県だけでなく、広島県、福岡県、大分県、佐賀県、長崎県を移動しながら万引きを続けており、夫の供述によると「電子タバコ306本、120万円ほどの転売額」となっているんだとか。

これほどの大規模な犯行を「行ってくれ」と言われたので、というのは無理があるのでは。何か、暴力的支配を受けていたなどあれば、妻側の情状として酌量すべき点はありそうなのですが、抵抗できなかったという事情は特に出ず、「ただ運転しただけ」という軸を変えなかったです。

そして、さらに驚く情報が。
この家族には、犯行に加担した息子のほかに、6歳の娘がいるのですが、その車での犯行時に一緒に連れていたのだとか。
娘には犯行を気付かれないようにしたとか、家においておけないジレンマを抱えながらの犯行などと言ってましたが、この情報がどういう妻を擁護する意図なのか全然わかりませんでした。

続けて検察官から

検「古いものですが、裁判を受けたことありますよね」
被「はい」

検「今回もですが、当時も前の夫と行った犯行ですね」
被「はい」

検「で、今回も家族でしているわけだけど、止められないの?」
被「私は何度も止めています!」

検「でもあなたしか運転できないんだから、しなければ成立しませんよね」
被「でも、「運転しろ」って言われるから...」

検「今後も言われたらどうするんですか」
被「もっと強く言いますし、最悪離婚もします!」

「最悪離婚」って、何度も過ちを重ねる人に最後のチャンスを与える監督者の言葉だと思うんですが、この方が言っても、何がどう最悪なのかさっぱりわかりません。
弁護人は「ただ、運転しただけ」という主張でしたが、過去のことも含めて、この人自体にも課題点ありで、それに向き合えていない印象を与えた気がします。

検察官の求刑は懲役1年6月
弁護人の主張としては、盗む実行行為は夫と子であり、妻は運転と見張りに留まった。犯行のきっかけも「夫が売ったら金になるから」と言ったから。運転したのはそうだが6歳の娘を置いておけないジレンマを抱えながらの犯行だった、その他弁償見込みや、被告人の抱えている精神疾患についても言及し、執行猶予判決を求めました。
ニュースなどを探っても、判決はわかりませんでした。

さて、この妻に続いて行われた、盗みの実行犯の一人である息子の裁判。
妻によると「夫に言われたらから、私は運転しただけ」という主張でしたが、ほとんど息子の話題が出なかったんですよね。盗みにおいて、そしてこの家族においての息子の立ち位置が気になるところなのです。


息子裁判の証拠関連 ~母のみ示談を締結?~

親と同様、身柄拘束をされている息子は20代。外見から年齢相応な印象を与えるのですが、若干幼さも感じます。入廷時や被告人席に座っている様子から、かなり不安に思っている感情が伝わるようでした。
母親の裁判と同様に、家族3人でコンビニで電子タバコ2つを窃取した疑いにかけられています。

家族は生活苦のため、転売を目的とした窃盗行為を行うことを決意する。
母親が運転する車で、主犯の3人と被告人の妹の4人で、自宅の北九州から山口県内まで向かいました。その道中で正確に何件の事件を起こしたかはわかっていません。その間に裁判所は何軒あるんだろう...。

家族としては弁償の意思を示しており、起訴されている2件に関しては、母の名前で弁償と、厳重処罰を望まない示談がなされている。

あまり家族複数での事件の裁判を見ないのでわからないんだけど、そういうときの弁償や示談ってのは、個人の名前でするものなのだろうか。
最終的に弁護人は「母の名前ではありますが、被害弁償もなされており…」って言ってたので、被告人もその弁償に関与した同義と捉えてちょって感じのことを示したそうなので、あくまで母個人として締結したという意味なのでしょうか。それだと酷いですね。

さて、息子の裁判の証拠調べなのに、息子情報があまり出なかったので、被告人質問ではっきりできたらと思います。


息子の裁判の被告人質問 ~息子一人でやったということで~

弁「この起訴された日には何件ほど窃盗したんですか」
被「岩国で10店舗以上は」

弁「この日以外も行っているようですが、いつからいつごろまで行っていたんですか」
被「その起訴された事件の半月前ほどから初めて、起訴された事件の半月後くらいまで」

弁「誰とやったんですか」
被「お父さんお母さん

ここの「お父さん、お母さん」呼びに少し感じるものが。呼び方など気にしなくてもいいのですが、多くは父親、母親という呼び方。
甘えん坊という印象というより、親の管理化に置かれてきて、何か幼さを残している印象をなんとなく感じました。

弁「万引きを始めるきっかけというのは」
被「義父(以下、父)としている仕事が出れなくなってお金がなくなって」

弁「仕事ができないというのは」
被「父がケガをして。僕が1人で行うと、ガソリン代とか割に合わないから両親から僕にも休んで欲しいと」

弁「でも母親も仕事していないからお金なくなっちゃいますよね」
被「はい」

弁「仕事できない以外にお金が減っていく要因は」
被「家族みんなパチンコしていたこともあり」

あえて僕が指摘しなくてもと思うのですが、ケガをして仕事ができなくなったという点はわかるんです、というか同情いたします。経費の方が嵩むから二人とも休むという選択をすることもあるでしょう。
しかし、この家族は自ら休む選択をして、切羽詰まったような事情も証明されず、ただ貯金をパチンコに切り崩し、窃盗にジョブチェンジする。仕事を休む決定をしてから、どういう計画だったのか小一時間両親に聞いてみたいものです。

それどころか、被告人は父と一緒に働く中で、自身で稼いだ分は家族の生活費として入れていたので、自分ではもらっていなかったそうで。なんつうか、いいように使われていた感じがするなぁ。

弁「今回の犯行を言い出したのは誰?」
被「何かを売ってお金にするとは僕が言いましたが、盗んだものを売ろうと言ったのはお父さんでした」

弁「そのときどんな話が出た?」
被「最初は、僕だけが捕まっても、両親の関与は言わないと」

弁「なんでそういうことに」
被「5歳の妹にとって両親がいないのは、と思って」

弁「妹に何か食べさなきゃという思いはあった」
被「はい」

妹を思うのなら、なんでそんな状態になるまで時を過ごしちゃったかなぁ。そして、自分だけが捕まるといった際の、両親の反応が気になるところ。「あざーすwww」って感じだったら、俺が二人を犯行ルートの都道府県を辿る裁判傍聴の旅に連れて行く。

弁「みんな逮捕されて妹はどうなった」
被「最初、施設に行くことに(その後親戚に引き取られた)」

弁「今回のこと、妹のためになった?」
被「いいえ」

弁「どうすべきだった」
被「犯罪以外の方法を言うべきでした、もしくはギャンブル辞めるとか」

当たり前だろ!と言いたいけど、親には言える感じじゃなかったんだろうなぁ。まぁそれはそれとしても、被告人自身のギャンブルは辞めるよう努力すべきだったと思うけど。

弁「いずれ社会復帰したら仕事はどうする」
被「父と離れて給料をもらって生活します」

弁「住むところは考えてる」
被「決まってないけど、両親とは出来れば避けようと」

弁「頼れる親戚とかはいる?」
被「お爺ちゃん、お婆ちゃん」

弁「今回の弁償は祖父母がしていますね、それを弁償する気はありますか」
被「はい」

母の裁判では、母の名で弁償と示談したって言ってたけど、負担してたのは祖父母だったんだ。どうしてそれで、母一人の名が…。

検察官の求刑は懲役1年6月で、母と同じ。
当然、動機は身勝手で、酌量の余地はない。盗むという実行行為もしているけど、思考が幼いという点も含め抵抗できなかった印象から考えると、ちょっと同じ懲役刑というのは重く感じました。

今回の事件、動画にもしております。
是非とも動画の方もご覧くださいませ。


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