4630万円事件に魅せられて実刑の重みを感じた話(電子計算機使用詐欺) 傍聴小景 #53-②
もう10日も過ぎましたが、新年明けましておめでとうございます。
今年も皆さんに少しでも裁判のことを身近に知っていただけるように、多くの事例をわかりやすく、そして僕自身も少しずつ知識を身につけより参考になる文章作りをできるよう精進してまいりますので、どうかお付き合いのほどよろしくお願いいたします。
新年一発目の今回のテーマは、正月ボケから解消するためとしてはとてもハードルが高いですが、俄かにまたネットで盛り上がりを見せつつあるので頑張りたいと思います。
当記事は連載記事の2本目です。1本目は以下のリンクからお読みください。
お読みいただくにあたって
本日は前回の続きで、1回目公判で行われた弁護側立証として行われた証人尋問から。
証人は2名。被告人の母親と、被告人が現在働いている会社の代表さん。YouTuberのヒカルさんじゃないよ。
前回も説明しましたが、無罪の主張ではありますが、行ったこと自体は認めているので、無罪の後押しというより仮に有罪になっても再犯はしないという主張が主になります。
もし無罪の主張の場合は、金融機関の人を呼んで、約款の認識確認とかをするべきだったのかなぁ。
とは言え難しいのは裁判では、まず事実を立証しなければいけないのが検察官。弁護側はそこに対して、疑いを挟み込める余地を見つけられるかどうかなので、現状具体的にどういう解釈で罪になるかを検察が立証ができていない以上(傍聴席の所感)、弁護側として意見を挟む場所がなかったという印象。
この推定無罪の考え方辺りが、法を学んでないものの最初の壁な気がする。
証人尋問 ~普通の生活が出来て感謝しています~
まずは被告人の母親から。見たところ、どこにでもいる静かなお母さん。
涙ながらに静かに頭を下げる母親。被告人はその姿を見ながら表情を変えません。その姿から何を思うのか。
事件性であったり、保釈にYouTuberのヒカルさんが関与することで大きな話題をかっさらった被告人。話題にはなるものの、本人の口から発せられたことはほとんどないですから勝手な憶測を呼ぶこともあるでしょうし、家にいるにこしたことはないでしょうね。
ちなみに彼のTwitterをフォローしている私。マスクの彼とは違って普通に更生に期待してるんで。
でも、たまに外出の写真はあるけど、これは母親が隣にいるのかな?とか思ったり。。。
と質問が打ち切られ、そのまま弁護側の質問は終了。
これ難しいところだよなぁ。平穏な生活ができなかったということで、充分に社会的な制裁を受けているということなんでしょうけど、とにかく本人の身勝手さが生んだ結果でもあるし、でも母親まで追い詰めてどうすんねんという気もするし。
というかスーパーまで押しかけて、何を聞き出そうとするんだ…。『被告人の母、今日の献立はハンバーグ!反省の色が見えない』という記事でも作るのでしょうか。
こういう日常生活の平穏を害されたので、途中で出てきた「このような中で生活させてもらい大変感謝しております」という言葉に繋がるんだろうな。普通に家にして、普通に仕事をしている環境にこれほど感謝してるんだからね。
でも、逆に言えば事件前までは生活状況はどうだったんでしょうかね。
色々仕事にはついていたけど、長続きせず辞めてしまう被告人。若くして借金を作り、たぶん縁のない阿武町に一人移り住み、債務整理をして、祖母に現金管理を任せる状況。この一連に母は出てきません。
事件までは被告人の生活や親との関係とはどうだったのかがわからないと、再犯しないための監督する環境が整っていると太鼓判押しにくいんだけど、弁護人はその辺は触れず、検察官はまさかの質問なしだったので、その辺はわからないまま母の証人尋問は終了。
続いて会社の代表さんが証言台に。会社の代表と言っても30代の若々しい方。リーダーシップめっちゃありそう。
究極のブロッコリーと鶏胸肉というのを販売している会社さんです。
ここ5年くらいで働き方ってすごく変わりましたよねぇ。もちろん、今までも在宅で勤務している方はいたけど、その管理ツールなんかも一般化して、それが裁判の場でも大きな説明も不要で進行していくんだもんなぁ。
被告人の更生態度はまだ働き始めたばかりだから判断は保留としても、社員数が片手で数えられるくらいの会社さんのようなので、チェックの目は厳しそうです。更生に期待です。
検察官からも少し質問します。
働いたり、監督する目がいつまで継続するかと、金銭に困ってまたギャンブルに狂わないかの質問ですね。
今回の被告人のように、仕事が続かずお金に困った人って、スキルが無い人が多いから、どうしても低収入で経験はいらないけど、体力的か精神的にキツイ仕事しかない。それがやっぱり続かなくてまた犯罪に手を染めるという悪循環が起きやすい。
そう考えると、ホントこの被告人はいい人、いい会社に出会えたよなぁ。売名っていう意見もあるかと思うけど、メリットと同様に非難もあるだろうし。
犯罪じゃなくても被告人が何かしたら「やっぱり…」と安直に思われることあるでしょう。そのリスクを踏まえても、更生の手助けをしようという思いにはやはり熱いものを感じます。
この感情は歳を取り、組織を任せる機会や規模が大きくなるにつれ考えが変わってきましたね。逆に組織を守るために採用しないと強く意思を固める場合もあるでしょうしね。
この会社さんによる被告人の雇用受入れについてはプレスリリースがされています。
というか、ヒカル氏はホントなんで彼に目をつけたんだろ。その辺りの経緯をもっと知りたいよな。証人として来て欲しいけど、そんなことしたら山口地裁はパンクしちゃうだろうなぁ。
とりあえず地裁の前のローソンには「その日は仕入れ増やしておいた方がえぇで」って情報を流して、マージンをもらいたいものですな。
と、だいぶ心が被告人側に寄ってしまったのですが、裁判官が一つだけ質問します。
そうなんですよね、いくら初犯、いくら情状の余地があるとしても額が額です。その可能性は十分にあるんです。
ここで、安直に「それでも雇用を継続します」って言わなかったのは、なんとなくただ受け入れている訳じゃないって表れと、代表者としてその後の立ち振る舞いを考え頭がフル回転したんだろうなと予想できて、良き回答だったと思います。
刑務所という言葉が出て、ちょっと場が締まりましたね。
被告人質問(弁護側)~はじめての給料はヒカルさんに~
さて、裁判の肝でもある被告人質問!
なんですが、今回は被告人の行動の意思決定は当然問題なのですが、法律解釈としての犯罪の成否が裁判上ポイントなので、それを法に詳しくない被告人に聞いてもなぁというところで、裁判の軸とずれざるを得なかったのはやや残念なところ。
今回のように4630万円が誤入金されるという事態は恐らく今後ないわけで、全く同じ状況になったときに「また、するのかしないのか」という話をしても無駄なんですよね。
犯罪行為という意味では何かしら今後の長い人生で起こしてしまうので、いろいろと危うい感じのする意思決定の経緯を確認する場というような感じでした。
どこまで真実かはさておき、前例のないトラブルで大パニックになり被告人への対応を最低限にしつつその先のことばかりを考える町側と、
起きて何がなんだかわからないまま不安だけが募ってくる被告人という心理的な構図は分かる気がします。個人的にはどっちの気持ちもわかる。
ちょちょちょい待って。
「不安がありました」はわかるんだけど、結局そこでどうして銀行行きを断ったのかのくだりがあっさり過ぎる。俺、途中寝てたんか?
町職員としてはどうやっても強く止めただろうし、それをどう振り切って一人になったかっていう被告人の行動というか、強引さを知りたかったんよな。風呂入ったくだりとか無くても良かったわ。
これがいわゆる裁判の争点の1つである、「銀行に告知していない」ということですね。
当初、事件の全体像を把握したとき、「そら、銀行に連絡いってるはずだから、自分から連絡せんやろ」と、検察の主張には無理があるなぁと思っていました。
でも、採用されている証拠によると、「急にそんな大金の話をして詐欺ではないか」とお金の入金について怪しんでいるっぽい描写もあるので、本当にお金の入金を確認したならば「変な現金が入っている」と銀行に連絡してもいいような気がしてきました。
この辺の故意性や細かい心情など、双方からあまり質問がなかったんで、実際のところはよくわかんないんですよね。
・・・
・・・
・・・
遅い!
使い込む以前に、自分の口座にいきなり4,630万円が入ってた時点で、とんでもないことだし、それを使い込んでる最中に気付くだろうに。
と書いてて気付いたけど、どうして出頭にいたったのかみたいな質問も、多分していないな。そういや母親の証人尋問でもその辺り聞いてなかったな。
自業自得とはいえ、大変な思いをしたのであろうことは想像に難くないので、このような普通のことに感謝の気持ちを持つ気持ちというのは理解できます。
ただ、母親と違ってこの人は当事者なので、ちょっとこの言葉を思い出してしまいます。傍聴券を待つ列にいた阿武町から来たおばちゃんの「誰も死ななくてよかった」という発言を。
事件当時は町側としても対応を死ぬ気でやったのでしょう。民事で解決したとはいえ、世間からは「あの阿武町」と認識されるであろう中、「お前は何を当たり前の生活を過ごしてんねん」って思っちゃう方もいるかもしれないですね。
言葉って受け取る人にとって意味合いが全然変わってきちゃいますよね。
弁護人からの質問は終了。
多分、有罪を争ってなくて、罪の重さを争っている場合なら、町の対応にも問題があったので酌量してよ、という論調にもなるんでしょうけど、今回はそう主張しちゃうと「町を困らせる意思で銀行に告知せずに使った」と捉えられちゃうからダメなのかもな。
なので、終始反省していますって主張になってしまいましたね。まぁ仕方ないかな。
被告人質問(検察側)~町はあなたが言うことを守りましたよね~
一方の検察は何を証明しなければいけないかというと、ちょっとわかんない。争いのない箇所だけど、今回の安易な意思決定について再度確認するくらいかな。
もうその手の話がお腹いっぱい感があるのは、報道でたくさんそういった論調を見たからかな。そう考えると、「もういいよ、その話は」ってならない裁判官は大変。そういう気になってるかもだけど。
不信感って言うけど顔馴染みだし、弁護士に相談するって言ったけどしてないし、適当なんでしょ?といったご主張の様子。その辺りはもうみんな、なんとなくわかっているんだけどなぁ。
もう、その辺のだらしなさの証明はいいんだよなぁ。
弁護人とは違う視点で、今回のことがいかに悪いことがわかっているかと反省を促す方向に話を進めてほしいんだけど。
それは無理があるんじゃないのか。
「パニックになって使ってしまいました。いつか捕まるかもと思いましたが、目の前のお金に目がくらみ…」とかなら、言い分としてはまだわかるけどねぇ。
それとも、「お金がないところからは回収できないんですよ」っていう、ひろゆき的な思考なのかしらん。
これはどういう質問だったんだろう。
検察官が主張するような、「組戻ししなければいけないのに「銀行に告知することなく」、またその現金の利用に「正当な権限がない」のに、「オンラインカジノに費消するという目的」で、オンラインバンキングに「虚偽の情報を入力」することがいけないことと思いました」とでも言ってほしかったのかな。
まぁここまで大げさでなくても、「自分のお金でないのに」という認識の有無の確認だったのかな。
このあと、被害回復についての質問があったんですが、内容が被っているので割愛。
最後に裁判官から少しだけ質問がありました。
勝手な妄想をします。
被告人の交友関係ってどうだったのかな。あまり得意でなかったんじゃないかな。
だから、こういうお金が振り込まれても誰に相談できるとかなかったし、わざわざ阿武町に移り住むなんて人との接触を減らそうと思ったんじゃないかな。
これは人のお金の考え方によるだろうけど、4,630万円が不正に手に入ったとして、全部カジノに溶かすかね。自分の生活費だったり、交際費にも使わんかね。
この辺の特異さが、ある種、被告人の当時の状況を表していると考えちゃったりも。
最後の論争から次回への期待
さて1回目の公判はここで終了して、次回に検察官による論告・求刑と、弁護人による最終弁論で結審します。
日程の調整などして、ちょちょいと終わるかなと思っていたのですが、最後にひと悶着が。
その後、打ち合わせの是非は検察官などに確認するなどして却下。
弁護人としては語気強く異議を申し立てるも認められず。
この流れを解説すると、多分だけど、
裁判官としては検察官としては今の証拠だけで「正当な権限がない」とか主張するわけじゃないよねと確認をして、検察官は次回にはっきりさせると言った。
弁護人としては、いきなり次回の場で検察の主張を並びたてられても弁護のしようがない。あらかじめ明示してもらうために三者間の打ち合わせをしてくれと。
検察官としては、「詳しくは論告で言うけれども、今の証拠でも十分だから打ち合わせなんて必要ない」って態度で、裁判官も「うん、まぁそうかもねぇ…」みたいな感じで却下したのかな。
弁護士さんも食い下がったけど、残念でした。
こういうのを見ると、弁護士ってのは孤軍奮闘感が伝わり、裁判って検察有利で進んでいるのかななんて感じたりもします。
この辺りの流れを正しく理解するには、もっと法律を知らないといかんよな。
今はまだW杯で、世界のゴールシーンを見てきゃっきゃ言ってるだけ。ここで10番が走りこんだから、ここにスペースが生まれてフリーになったからゴールになったみたいな見方ができるようになりたいよ。
という訳で、今回の記事でひとまず初公判の説明はおしまい。
次回(来週)の記事で、12月27日に行われた第2回公判の様子などをお届けする予定です。
最後の3者のやり取りにあるように、検察官は最終的にどういう主張をしてくるのか、弁護人はそれにどう対応するのか、ってか当たり前のように山口県まで傍聴しに行ってるけど、そこでのドタバタはないのかなど、一気に書き上げる予定ですのでどうかお楽しみに。
最後にお願いです。
当記事は、レア過ぎるケースというのと、社会的に関心が高いであろうということから、有料記事化せず全文お読みいただくスタイルをとっております。
もし今回の記事が何かのお役に立てたのであれば、今後もこういった事件を追って記事化するための活動費用として、月額会員のご検討、もしくは当記事の単品購入(ご購入の御礼箇所だけが隠されております)をご検討いただけますと幸いです。
また気になって追って欲しい事件などありましたら、可能な限り対応したいと思っていますので、コメントまたはTwitterなどにもご連絡いただけますと幸いです。
では、次回の記事もどうかお楽しみに。
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