動機は「ヒモ生活を解消させられたから」身勝手な怒りを向けられたのは飼ってた小型犬で... 傍聴小景 #125(動物愛護法違反、器物損壊)
聞いていて思わず「痛い!」と言いたくなることは、裁判傍聴の中でよくあります。
それは別に重大事件として想起されるような鋭利な刃物で刺されたとか、命に関わりそうとか、非日常的な描写である必要はありません。どちらかというと、日常に潜むアイテムなどの方が、変なリアリティがあって嫌な気分になるものです。
はじめに ~この罪名は少ないけど注目されがち~
被告人は、ややふっくらして、ロン毛にメガネをかけた男性。服は留置所で支給される緑の服を着ています。
そんな出で立ちなので、後ほど触れる被告人の過去の職業を聞いて、結び付けることが難しく驚きました。事件当時は無職でした。
僕はこの動物愛護法違反の裁判は2〜3度しか傍聴したことがありません。しかし、この罪名がニュースになると、多くの場合、タレントの杉本彩さんが名を連ねます。
もちろん悪い意味ではなく、動物を保護するための活動の一環として、意見を出したり、実際に裁判を傍聴されたりしているのです。私も地裁で傍聴になられているお姿をお見かけしたことがあります。
杉本さんの件は特殊ですが、傍聴席を見ているといろいろと気づくことがあります。
想像なってしまいますが、被告人の関係者、もしくは被害者ご本人・ご家族が座っていることもあれば、社会復帰後に支援を行う予定の団体の方、もしくは同種で別裁判となっている事件の弁護人などなど。傍聴席そのものにもいろんな見方があるのです。
なお、この裁判の傍聴席は常連の傍聴人だけでした。
事件の概要(起訴状の要約)
小型犬に対して、なんたる凶行...。実は裁判ではその怪我の様子について、もうちょいキツい表現があったんですが、自主的に規制しました。
それにしても掃除機のパイプ部分ってリアルに嫌な鈍器だなぁ。言い方悪いと思いますが、もしただ殺したいという思いなのだとしたら、もっと他の選択もあると思うのです。
でも、この掃除機パイプを選んだのが、とにかく痛めつけたいだったり、怒りをぶつけている感情を表しているようで、非常に不快でした。
この罪名を選んで傍聴している時点で、ある程度の覚悟はしているつもりなのですが...。
採用された証拠類 ~ヒモの関係を壊されたのだからこちらも壊したい~
はい、クズ―という感想はさておき、まず補足から。今回暴行を受けたのは犬ですが、被害者と表現しているのは同棲していた女性のことを指します。
器物損壊罪というのは、その所有者である被害者の告訴によって成り立つものなので、犬の所有者である同棲相手が被害者という表現になるのです。
さて、話は戻します。
被告人は見た目としては、ふっくら顔にロン毛というか乱雑な髪だったこともあり、外見だけではとても元ホストとは思えなかったのです。ホストが見た目だけとは言いませんが、どうやら3〜4年はヒモとして自堕落な生活をしていたそうなので、ホストとして積み重ねていたものがなくなったのでしょう。
ただ、それでもヒモとして渡り歩いていたというのですが、なにかスキルは持っていたのでしょうね。
それにしても検察官の証拠だけでは、1ミリも同情ポイントがありません。
その後の弁護側の立証として、
は証拠採用されたのですが、果たして今の心情はいかなるものなのか。
被告人質問 ~養育費は望むのなら払います~
勝手なイメージで申し訳ないですが、ホストと聞いて「うぇいうぇい」言っている僕と同じイメージをお持ちの方もいるかもしれません。ただ少なくともこの公判中は、被告人は下を向きがちで暗い雰囲気を漂わせてはいました。
自暴自棄になっての犯行ってのは、まぁ犯行内容から想像できなくないですが、後の供述からも正職についていない理由なども明かされず、単に自業自得なのでは?という印象。
両親が亡くなったということ自体は同情ポイントかもしれませんが、これも特別な両親への依存が供述されるわけでもなかったので、なんだかなぁという感じ。一応、兄妹はいるみたいですが、疎遠なようなので、家族関係というのはなんともわからず。
まぁアンガーマネジメントはそれはそれとして取り組んでいただいたらいいとは思うんですけどね、根本は色々と考えの浅さだったりすると思うんですよね。
問題の本質をどこまで認識しているのかという。なんとなく発言の薄っぺらさを感じます。
う〜んと、被害者としてはもう出てってほしいと思った時点で、あなたとのこと思い出はかなり悪いと思います。
それが今回の事件でさらに、嫌な思い出から、常に失明で苦しむペットが眼の前にいて辛いし、事件を思い出すということだと思います。やっぱ思考が軽いんよな。
あと弁護人が夜職をすぐ働けて、すぐ辞めれる仕事と表現していたのも気になりました。昼職として、気持ち入れ替えて頑張りますってことなんだろうけど、具体的にどう頑張るかは、「ただ頑張る」ってだけだったので…。また、よりによって体力なさそうな被告人が土木を頑張るって...。
言葉はペラペラと出るんですが、かなり信用ならんという印象。
検察さんはそのあたりの薄っぺらさを引っ剥がすことができるのでしょうか。
自堕落な生活をしていて、楽な方へと考えるのまではわかるし、働かないで自分はどうなるんだろうとむず痒くなるような気持ちはなんとなくわかります。でも、それが自殺願望と言われると大きくクエスチョンマークです。
ヒモとして女性宅を移り歩き、依存しないと生きていけない、不安な気持ちはわかりますが、それは自殺願望なのでしょうか。
正直なのはいいですが、相当ヤバいっすね。やっぱ自殺願望じゃなくて、もうどうにでもなーれという状態だと思うんですよね。
「自分も泣いている状態だった」からなんだというのでしょう。そこで、抵抗できない小型犬を狙ったという、自身の卑しさを本当に悔いてほしいです。
お前、子どもが生まれて別のヒモ生活始めようとしていたのに...。
アンガーマネジメント自体を否定する気は毛頭ないですが、単に表面的なポジティブマンになりましょうってことじゃないと思うんだけどな。
僕としても今回のような被害は生まれてほしくないので、被告人の更生の可能性は信じたいんです。でも、言っていることが「前向きに頑張る」くらいなので、不安になるなという方が無理というものではないでしょうか。
求刑・弁論・判決すべてになんとも言えない気持ちに
検察官の求刑は懲役六月。
残虐で執拗な犯行、人への粗暴性も懸念されると言及しながらもこの求刑の短さには、この罪の量刑傾向に疑問を感じずにはいられません。
そして弁護人の弁論もなかなか。
突発的な感情によるもので、犬は死亡しておらず結果は重大とまではいえないとのこと。また事後的に犯行を省みて反省もしており、裁判での発言内容から見ても再犯可能性はないとのこと。
事後以外に犯行を省みれる人がいるのか疑問しかないですが、どういう発言内容から再犯可能性はないと言えるのでしょうか。
仕事としてそう言うしかないのかもしれませんが、であれば嘘でももっと道筋を示してもらいたかったです。
十字架を背負うとは言いますが、いったい何をするというのか。養育費も「望むのなら払う」と言ってたけど、自分から被害者のためになることをしようとは思えないのですが...。
判決は懲役6月、執行猶予2年でした。
懲役6月はいいです、求刑通りだから。
でも執行猶予2年っていうのは、結構レアで、相当許されているときしかつかないんですよ。判決の中で更生意欲ありとは言ってたけど、言葉だけで意欲見せてて一歩間違えたら大惨事、という危険性を感じなかったのでしょうか。
普段裁判に触れていないペットを飼っている人からしたら「なんて軽い判決だ!」と感じることでしょう。
普段なら、僕はそれをなだめる役なのですが、ちょっと今回のはなんとも言えない気分になりました。
今回の記事は動画にしております。
こちらも併せてご覧くださいませ。
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