裁判の判決ばっか集めちゃいました(10月版) 傍聴小景 #95
刑事裁判の進行には大きく分けて以下の3種類あります。
つまりは、裁判の途中の様子は全然わからないけど、「判決」の部分だけ傍聴するのことができるのです。多くの裁判が判決だけなら5分~10分程度で終了します。
そこだけ見ても…とお思いかもしれませんが、どうしてその判決を下すにいたったかの理由を説明するに際し、事件の内容はおおまかに説明するので(裁判官によっては割愛しますが)、短期間で事件内容に多く触れるという意味では結構勉強になるのです。
という訳で、「なんで?」という疑問は残るものもありますが、判決のみ裁判特集です。
今日は事件そのものがニュースで取り上げられたのを見たことがある裁判の特集です。
No.40 終始、微妙な金額の男
被告人は中学校の元校長先生。事件は2つ。
教科書発行の出版社に対して、教科書選定の調査員の情報や機密事項などを提供し、合計現金3万円や飲食費接待など3回を受けた疑い。(加重収賄)
2つ目は修学旅行の下見旅行の際に、自家用車を使っていたのに、公共交通機関を使ったように府に申請して、44万円を振り込ませた疑い。(詐欺)
なんというか校長なのにするのがこまっちぃ人だなとも思ったのですが、発覚したのがこの分だけってことなのかな。さすがに教科書会社にとって、教科書採用って年間の売り上げを大きく動かす話だから、3万円ってこともないだろうしなぁ。
あくまで、明確に証明できる事例しか裁判にならないという点と、また一方でどうやってこれらを正しく証明するのだろうという捜査側の大変さに気付かされる事件でした。
被害額を大幅に超える弁償金を払っているということで、執行猶予になりました。起訴状の被害金額を超えるといっても、この額じゃ校長先生にとって微々たるものでしょうに。
賄賂って言葉は、たまにドラマで聞いたりもしますが、非常に証拠などが複雑なので、傍聴にはあまりオススメしないのです。誰か、この類の裁判の楽しみ方を教えて。
No.41 もう飽きた男
この被告人に面識はありませんが、「またかよ!」と言ってしまいそうでした。
被告人はメンズエステ店の従業員。この店では、施術する女の子がわざと男性を誘惑して、事前にお店から禁止行為とされている、性交に類似した行為を誘います。
その様子を店長やら、従業員である被告人が監視カメラで覗いていて、嬢からゴーサインが出ると、部屋になだれこんで因縁をつけお金を騙し取ろうとすることを繰り返していました。
実はこの店の事件、この被告人の他に嬢2人、従業員1人、店長1人の裁判を見ていたので、もうお腹いっぱいだったのです。店の名前も、それぞれの従業員の役割なんかもなんとなく把握してしまっている状態での傍聴でした。
他の被告人さんと大きく異なることがない判決でした。店長は少し重かったけど。
これ良し悪しだと思うんですけど、先ほど挙げた事件に関連する人の裁判って、全て一人の裁判官が担当しているんです。しかも4人一気にでなく、4人バラバラで。
なので事件の理解だったり、被告人間で必要以上に刑の差がつかないというのはあると思いますが、逆に差がつきにくいというのは、有罪前提ということ。もし、本意気で無罪を取りに来る被告人がいたときに、他の人と同じくでなく、ちゃんと別の裁判として審理できていたのかとても気になるところです。
でも、この事件の店長は捕まったんですけど、その店長は雇われで、裁判で名前が出まくってるオーナーみたいなのは捕まってないんですよねぇ。果たしてオーナーの裁判で大団円を迎えることはできるのか…。
No.42 同情するけど振り切っちゃった女
先ほどの賄賂系に続き、またも難しそうな選挙の話。
公職選挙法違反と聞くと、勝手に立候補者がルール外の活動したり、お金を撒いたりとかそっちを浮かべてしまうのですが、今回の被告人は1人の投票人でした。
これは判決しか傍聴していないので、誤りもあるかもしれないのですが、事件として疑われているのは「選挙の意思がない娘の投票を偽造しようとした」というもの。
どういうことかと言うと、被告人の娘さんは自閉症を持っていました。
でも、投票権を持った娘に社会経験を積ませたいと考え、期日前投票に連れて行くことに。そこで投じられた票が娘の意思によるものか否かという裁判でした。
判決は通常5分程度のものが多いのですが、これは30分くらいやっていました。
それくらい争点があったようで、なかなか聞きごたえがありました。そう言うと、裁判の審理も傍聴しておけばよかったのか、という話になりますが、それはそれで情報をまとめるのが大変そうだなと思うので、微妙なラインなのです。
まず、有罪となったので、裁判所としては、投票された票は娘の意思ではないと認定しました。
弁護側は娘は指を指すことで投票の意思を示していたというが、現場に集まった4人の職員がそのような場面は見ていないと裁判でも証言。また担当する保護士は、初めての場所で、知らない人が周りにいる状態では耳をふさいでしまい、意思を示せないと思うと証言したことから、意思を示していないと認定。
一方で、被告人が娘の投票用紙に記入をした上での偽造投票かというとそれは認定できないとしました。どのように投票用紙を得たかについては、証言に食い違いもあり、見間違い含め、被告人が書いたと特定するのは困難としました。
弁護側は、記入をしていないならば偽造でないと主張するものの、白票であってもそれ自体が投票の意思であり、それが本人の意思でないのであれば、偽造と同等であると判断。
被告人は事前に役所から、「本人の意思を表明できるなら可能」と言われており、当日職員から本人の意思ではないと制止を受けているが振り切った点なども認められる。
以上から、投票の公平さを侵害する行為であるとして有罪と認定した。
しかしながら、日ごろから介護に尽力し、20歳の娘に社会を知らせようとした経緯であったり、不安になった娘を見てすぐ投票所を出ることを選択した態様などを考慮して、求刑の罰金20万円より減軽した。
以上が判決の内容でした。
どうっすかね、判決だけ聞いた場合でも、それっぽく聞こえるでしょ?これだけ聞こうと思えば理解できるものなので、なんとかもう少しゆっくり喋ってくれるとかしてくれたら嬉しいんだけどな…。
No.43 十手の使い手な男
罪名の多さだけでも一大事なことがわかるかと思います。
事件も多数あって、闇バイトとして知らない人物から斡旋され、共犯者らとともに、時計店に入りハンマーでケースを叩き割り、7000万円相当の金品を強取。誰だかよくわかんないけど人に催涙スプレーをかけたり、別の人を十手で殴打して両手をロープで縛って監禁。パチンコの景品交換所に催涙スプレーで襲い掛かる、といったもの。
細かい争いはあったのでしょうけど、大筋を認めていたのか事件は多いけど判決の裁判自体は先ほどの選挙のおばちゃんより短いものでした。
被害が大きいのはもちろんですが、単なる実行役でなく、現場で主導的に動いていたことなどからこれほどの罪となりました。
最後、裁判官から「お母さんとの関係を改善して、ネットに繋がらないのは難しいかもしれませんが、正しい情報を取捨選択してください」とのお言葉。
ただ、このレベルの過ちを犯す人が、ネットの情報の取捨選択を正すよりもっとすべきことが山ほどありそうな気がするのです。
懲役10年から出てくるとき、ネット社会はもとより、リアル社会はいったいどうなっているんでしょうかね。
そんな訳で、今月の判決特集でした。
今回の記事の内容は動画にもしていますので、こちらも併せてご覧ください。
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