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神津島 神社旅(六)

本地垂跡のなごり  

伊豆諸島を宗教的に支配した三嶋神の成立は、本地垂迹に則っている。三嶋神神話の中核をなした『三宅記』が『三宅島薬師縁起』の別名を有することからもわかるように、東方浄瑠璃世界の教主で衆生の病苦を救うとされた仏としての薬師如来が三嶋神に姿を変え、神々とともに伊豆の島々を創造し、浄らかな瑠璃世界に神祗世界を組み込んで島嶼経営を進めてゆくというのが神話の主旋律である。ここに、神仏習合の典型をみることができよう。

食糧ばかりか生活に不可欠な水さえ満足に湧かない島々の生活が、薬師如来のつかさどる浄瑠璃世界の恩恵を賜ったかといえばそれは精神世界だけのことで、たとえば青ヶ島などは数次の大噴火で火炎地獄と化し、島民は五十年もの長きにわたり島を捨て、八丈島に不自由な仮寓を強いられた。他の島嶼も状況はにたりよったりで、苛酷な環境は近代以前から近代に引き継がれ、離島振興が立ち上がったのはつい数十年前のことにすぎない。

物忌奈命神社の広い境内の端には、すでに使われていない薬王殿がひっそりと佇んでいる。本地がすたれ、宮の権力は垂迹に帰した。薬殿の枯れた静寂に、権力構造としての神仏習合のなごりをみることができる。

X-E1+NOKTON 40mm 1.1.4

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