2023年6月20日の乾杯
2023年6月20日の乾杯。6月18日夜に二人で観た6月六月大歌舞伎夜の部、『義経千本桜』のお話をいろいろに。あと、早稲田大学演劇研究会新歓公演『走れメルス 少女の唇からダイヤモンド!』のお話なども。
👱演劇のおじさんと
👩おねえさんです。
👱こんにちは。
👩よろしくお願いします。
👱よろしくお願いします。歌舞伎をご一緒させていただきましてね。
👩はい。面白かったですね。今回は「義経千本桜」で。
👱六月大歌舞伎ということで。まあ、ボリュームもありましたけれどね。
👩いやぁ、正直疲れましたね。
👱ええ。
👩コロナが収束してからは暫く三部制で観ていたから、時間がね。
👱そうそう。最初に55分あって、20分休憩があって1時間35分、そのあと30分休息で1時間15分でしたからね。
👩なかなかにボリューミーでしたよね。
👱日頃みる小劇場演劇だったら3本ハシゴしているようなものですものね。
👩うふふ。なかなか凄い。
👱うん。まあ面白いから観ているときには全然時間をかんじなかったけれど。
👩そうなんですけれどね、腰が痛かった。
👱あはは。でも見所満載でしたものね。
👩私は腰があんまり良くないのであれだったのだけれど、観ているときには面白かった。「すし屋」の段があったのだけれど、あの流れがすごく好きで、前にも観たことがあるのだけれど、
👱ああ、はいはい。
👩あのいがみの権太さんのね、
👱うん。
👩すごいよかった。私は歌舞伎俳優だと片岡千之助丈というか片岡千之助さんが好きなので。「すし屋」の前の幕の小金吾討死の段で小金吾を演じられていて。平家の尊い方の奥方と子息を守って、追っ手を蹴散らしてという役だったのだけれど、
👱まあ、ぶっちゃけ護衛のお付きですよね。
👩その殺陣もまあ美しくて。
👱様式美にほれぼれしましてね。
👩うんうん。しかも今回席がね、花道の真横ということで凄くよかった。
👱まあ、後ろっていえば後ろのほうでしたけれどね。後ろから2列めで。
👩それでも全然よかった。全体を観ることができて。
👱まあ、後ろの方だと、役者が舞台から下がってくるところが綺麗にみえますからね。あと「義経千本桜」は全編が義太夫語りでね。「すし屋」はふたりで語っていくのも、聴き応えがあって。
👩そして仁左衛門丈がいがみの権太をされたのだけれど、もうね、まあぁ好き。
👱うふふ。そうか。
👩なんて良い物だと思いましたね。
👱なんかWebなんかにも載っていたしイヤホンガイドなどでも説明していたけれど、いがみの権太の演じ方というのは江戸前と上方風があるんですってね。で、仁左衛門さんだから上方風の演じ方で。奈良の吉野が舞台だから言葉なんかも関西弁が入って。「なにしてけつかる」なんていうのは関西弁の最たるものですからね。最近はわりと歳のいった方とか吉本新喜劇あたりでしか聞かなくなったけれど。でも仁左衛門さんが演じるとその温度がありつつもすっとしていて。私は学生時代まで関西だったからああいう言葉を飲み屋の大将や柄の悪い友人が使っていましたからね。なんか懐かしくて親しみやすくて。
👩うん。
👱でも、そうやって関西風に演じていても、もっちゃりしたところが全然なかったしね。
👩なんかその、誤解というかね、なんていうのかなぁ、悪いこと、置き引きとか語りとかそういうものにも手をだして、全然改心をしないと聞いたのだけれど、そんな権太が平家の尊き方々を守るために愛する自分の奥さんと息子を替え玉にして差し出すシーンがあるのだけれど、それも花道から出てくるのだけれど。
👱はい。
👩前から好きだなぁっておもっていたけれど、その花道の近くだったから、歩いて行くときに権太が苦しそうな顔をしているのがまざまざとみえて。「まざまざ」の使い方が日本語として正しいのかどうかちょっとわからないけれど。それがすごく良くて。
👱そうですね。
👩とても良くて。泣いてしまいました。もう号泣です。
👱となりでハンカチをつかっていらっしゃいましたものね。
👩はい。
👱あれね、前の段でいがみの権太が息子を背負って、夫婦仲睦まじく去っていくところがあるじゃないですか。
👩そうなんですよ。ものすごく、こうものすごくなかよしのシーンがあるんですよね。
👱うん。
👩かたっぽでは、その奥方とご子息と家来を騙してというか騙っておきながら、次の段で本当に必要な時には忠を尽くすっていう形になるから、ますますその振れ幅が大きいんですよね。感動の。
👩そう。
👱そうやってしんみりしたり深い感動もあるのだけれど、けっこうウィットに満ちた場面もあって。すし屋の娘のお里さんが、事情を知らないで勘違いをしてすし屋の下男に身をやつしている維盛に恋をしている姿とか。
👩あれは、勘違いというか事情を知らないだけだからかわいそうだよ。父親は知っているのに祝言を挙げさせようって。かわいそうだと思いました。
👱だけど、壱太郎さんも良かったよね。その無邪気さも女性の色香もよく出ていたし。
👩可愛かった。
👱歯切れもよかったしね、すごく。
👩うんうん。
👱ただなまめかしさで恋心を表すのではなくて、そこの所に明るさがあるから、その後の悲劇というか切なさや哀しさも募るのだけれど、ああいうシーンというのが、喜怒哀楽じゃないけれど、「すし屋」というのは人が思ういろんな色がたんと詰まっている場面なのだなあとも思って。名場面というのはそういうものなのかもしれないけれど。
👩うんうん。
👱あの、歌舞伎って様式美の世界でもあるし、往々にしてどこか醒めて観ている部分もあるったのだけれど、あれにはもう完全に引込まれてしまいましたよね。それにしても、昔の勧善懲悪ではないけれど、主従とか倫理観の厳しさみたいなものも凄く感じたしね。まあ見応えありましたよね。
👩うん。
👱歌舞伎役者というのも人間だからお年も召されるし代替わりもするし、そんななかで当代の仁左衛門丈を観ることができたというのもほんと幸せだったし。
👩うふふ。
👱あと、同じ役者さんに同じお役がついたとしても、その年齢によって醸される色とか演じ方とかが少しずつかわってきたりもするじゃないですか。
👩確かに。
👱そういう若い俳優の方も今回はたくさん観ることができたし。その方達が同じ役をされるにしても、もっと大きな役をされるにしても、今回を観たことでその礎をもらったような気持ちになって。たとえば壱太郎さんが今後どのような舞台をされるのか凄く楽しみになりましたもの。
👩ああ、ほんと確かに。
👱前にも話したことがあるけれど、噺家さんなんかでもそうなんですけれどね。二つ目のころから拝見している方が真打ちになられて、真打ちになられた当初よりも噺の数が増えて、枕にもゆとりが出てきてってなると、観客も違う境地で楽しむことが出来るみたいな。伝統芸能にはそういうところがある気がする。
👩ありますねぇ。
👱贔屓なんていうほどお金も時間も使っているわけではないけれど、それでも俳優が育つたのしみっていうのはありますから。推しなんていう言葉がないころから歌舞伎座にはそういう楽しみで来られているおばさま方もたくさんいらっしゃるみたいだし。
👩うん。
👱休憩時間にロビーに出て、聞くともなく聞こえてくる話には、昔あれだったあの方がねぇみたいなことも多いし。
👩はいはい。
👱ちなみにあの狐もよかったですよね。
👩ああ、よかったですね。あの、なんか、おもしろかった、あの狐は。
👱いやぁ、人間というのは鍛錬を摘めばあれだけくるくる回れるんだと思って。
👩うふふ。
👱でも、その中に主人に仕えるとか父母への情愛とかいうものはしっかりと描かれているしね。その中にいろんな外連があって、早変わりとか、どこから出てくるかわからないとかね。私も一度狐に騙されましたけれどね。
👩ああ、ふふふ。
👱花道の後ろでチャリンと音がして、声がかかって、後ろを振り向いたら、その間に舞台正面から狐が出てきやがったみたいで。
👩あれは凄かったなぁ。
👱やられたと思った。
👩ほんと化かされたという感じでしたね。
👱狐に化かされるというのはああいうことかと。ああいう外連って私好きなんですよね。
👩はいはい。
👱宙乗りみたいな大きな外連で見せるものもいいけれど、ああいう工夫と身体の切れで見せる外連って観れば観るほどわくわくする。もちろん今の技術だったらなんでもできるのだろうけれど、その手作り感が残るところに人間味あふれる工夫もあってね。
👩うん。
👱あと、久しぶりに三階の花篭で幕間のお食事もできましたしね。
👩それも、片岡仁左衛門丈・孝太郎丈監修の権太寿司というメニューで。
👱そうそう。
👩あの、「すし屋」の幕を観てからのお楽しみですごく良かったですよ。物語を感じながらお食事をということで。
👱美味しかったですよね。
👩時間が30分とギリギリだから一生懸命たべるのですよ。
👱うふふ。
👩随分久しぶりでしたよね。三部制のときには食事をする時間にもあまりめぐまれなかったから。
👱まあ、三部制になると、特に二部なんかでは幕間に食事の時間が重なっていないから。まあ、松竹さんもいろいろと工夫はされていて、アフターヌーンティなんかのメニューもやっていたみたいなのだけれど。でも、比較的早く食べることができて、味わいもあって、しっかりしているというのはなんか久しぶりでしたね。
👩そうですね。
👱最後というかデザート用に柔らかい豆大福みたいなものもついていて。
👩入りませんでした?
👱いやぁ、おねえさんも召し上がっていらっしゃらなかったけれど、私も無理でしたね。ビールもいっぱい頂いたしね。流石にビールと大福は合わんだろっていうのもあったし。
👩ふふふ。
👱まあ、しょうがないから潰れないように鞄に入れて持ち帰って、お夜食に麦茶と一緒にたべたらすごくおいしかった。
👩あはは。
👱ただ、ほんとベットに入る前だったので、夜中にしっかりともたれましたけれどね、さすがに。
👩あらあら。
👱まあ、食べた感は十分すぎるほどありましたけれどね。というか、賞味期限がその日だったから、必死こいてたべましたけれどね。
👩私は、甘い物があまり得意ではなくて、特にあんこが得意ではないので、母に食べてもらいましたけれどね。
👱親孝行じゃないですか。
👩いえいえ、助けて貰ったのは私です。
👱なるほど。なんか、あのお餅ってとても柔らかいのね。あんこもそんなに甘くなくて、でも物足りないとは感じない。とても上品な甘さなの。
👩ふーん。
👱なんか大福餅ってどこか粗野な部分があるじゃないですか。それが全然なくてとても上品な味なの。
👩そうだったんだ。
👱あれは、食欲旺盛な方が急いでメインディッシュを食べて、ちょっと物足りないようだったら最後はこれで満たしてねっていう配慮だったのかなぁとか思った。
👩うふふ、なるほどね。想かも知れないですね。
👱あるいは、管理栄養士の人がちゃんと見張っていて、この演目にこのカロリーでは持たないから、カロリーをちょい足しにして埋めろみたいな話になっているのかもしれあいしね。
👩はいはい。
👱まあ、あれだったら少ないという感じはしないし、でお結構お年を召した方でも丁度よい時間で食べられる量だった感じもするし。
👩なんか、まわりを見て前よりも多いなって思いました。
👱量が?
👩違うちがう、食べていらっしゃる方がね。
👱ああ、はいはい。
👩場所が変わるじゃないですか、しっかりと。座席でお弁当を頂くという選択もあるけれど。
👱今回は時間的にも丁度晩ご飯時だったからね。お昼だったらお弁当で済ましてしまおうって感じにもなるのだろうけれど、やっぱり夜はちゃんと食べたいってなるんじゃないですかね。
👩でもなんかね、あの席はなんていうんだ、横の席ってあるじゃないですか。
👱ああ桟敷ね、1階の。
👩そうそう、桟敷席。あそこならそのまんま食べられるから。一度行ってみたいですよね、桟敷席。一度座ってみたい。
👱二万円の席に座って五千円のお弁当を食べてみたいと。
👩ああ、凄いですね。
👱うん。
👩凄いけどね、いずれね、一度行ってみたいなぁとは思いません?だってあそこは凄いなぁって思うもの。。
👱うん思う。実際に、私の先輩が仕事をお辞めになるに際してご夫婦で行かれたという話は聞いたこともある。だいぶ前の話だけれど。
👩いいよね。良い贅沢だとおもう。
👱奥様が旅行好きで、でも足を悪くされて遠くにいくのがかなり厳しくなってしまったらしいんですね。
👩ああ、なるほど。
👱で、あそこなら銀座なら車でなんとか出かけられるからということで。まあ、温泉旅行にいくくらいのご予算でなんとかなるお値段だし。それはいい話だなって思って。思い出になるよね。
👩そうですね。ほんとだよ。一度、あこがれ。あそこはあこがれです。
👱そうそう、でも、そういう夢を持って生きるというのは大事だと思うし、下手側から花道をすこし見下ろすように観る舞台の風景ってほんと素敵なのだろうと思う。
👩うん。
👱なんかねぇ、ああやって歌舞伎を観ていると。実は私、歌舞伎の前日に早稲田大学演劇研究会の新歓公演を観たんですよ。大隈講堂裏でね。
👩はい。
👱当たり前だけれどみんなきっと20歳前から22~3後の俳優達でね、で、野田秀樹さんの若い頃の、夢の遊眠社のころの戯曲を上演したんですよ。
👩野田秀樹さんの、
👱『走れメルス 少女の唇はダイナマイト!』だったかな
👩ああ、はいはい。
👱それは、もちろん歌舞伎のような芸の洗練とは違う世界なのだけれど、若い俳優陣ではなければ出来ない芝居ってあるじゃないですか。
👩うんうん。
👱で、早稲田大学劇研ってヤッパリ凄くて、俳優達もみんな一瞬を作ることができるんだけれど、その上手さが歌舞伎みたいな気品や上品さではなくて、勢いに乗じた、戯曲が内包する良い意味での粗野さを出しているんですよ。そういう迸るような粗さの後で歌舞伎を観ると、劇研の凄さに映える歌舞伎の一段の強さみたいなものを感じて、劇研もすごいけど歌舞伎はヤッパリ凄いなぁみたいなとてもベタな想いに駆られてしまった。
👩良さが違うからね。
👱そうそう、観る側の感じる部分が違うっていうか。
👩うんうん。
👱でも、歌舞伎のつぶてを投げると木の実がバラバラっと落ちてくる仕掛けとかと、劇研が作っていた回る舞台とかね。まあ、手作り感満載なのだけれど。
👩へぇ、凄いな。できるんだ、劇研が。
👱なんか,作ったみたいよ。なんか、そういうのって、クオリティうんぬんはあっても、お芝居を作るというスピリットの部分では変わらないじゃないですか。そうやってお芝居を作るっていう意志はかわらないのだけれど、その洗練の方向が全く違うというか。そう考えると、お芝居といってもいろんな入り口とかトリガーがあるんだなっていうのを思いましたけれどn。
👩あの、全然違うからこそ。
👱あと、おなし「すし屋」でも、私、木ノ下歌舞伎が「義経千本桜」を上演した中での「すし屋」も観ていて、それはそれでちゃんと描こうとするものの主張があってものすごく面白かったのだけれど、やっぱり大歌舞伎で仁左衛門丈が演じる「すし屋」とは違うなぁというのもわかったね。
👩うんうん。
👱その時代にある思想とか発想が時代に拘わらず盤石だよね、歌舞伎というのは。
👩うふ、そうですよね。
👱なんかそれも感じましたけれど。
👩うんうん。
👱まあ、いろいろとお高い芸術ではあるのですけれど、歌舞伎はこれからも頑張って観にいきたいですよね。
👩そうですね。
👱観れば観るほど味わいが深くなるというか、
👩うん。
👱少しずつでも役者さんの名前を覚えたり屋号なんかも覚えたりすると益々愛着が湧いてくるし。
👩はいはい。
👱これでもっとコロナから解放されて、観客も増えて大向こうからバンバン声がかかるようになるともっと客席にも活気が出て盛り上がるのだろうし。まあ、日曜日だったこともあってお客様も多かったしね、以前に比べて。暫く前は客席も後ろの方なんかスカスカに空いていて寂しい感じもしたけれど、もうそれはなくなったけれどね。ロビーに出ても人が溢れていたし。
👩ああ、はい。
👱だいぶ状況も良くなってきたし、またいろんな良い物を観て、一緒にお話しましょうね。
👩そうですね。
👱では、今日はこのくらいにしましょうか。
👩はい。
👱それでは、演劇のおじさんと
👩おねえさんでした。
👱また次回をお楽しみに。
・六月大歌舞伎 2023年6月3日~25日@歌舞伎座
夜の部『義経千本桜』
<木の実・小金吾討死・すし屋>
片岡仁左衛門、中村錦之助、片岡孝太郎
中村壱太郎、片岡千之助、中村種太郎
中村秀乃介、中村梅花、片岡松之助
上村吉弥、坂東彌十郎、中村歌六
<川連法眼館>
尾上松緑、中村時蔵、坂東亀蔵
尾上左近、市川門之助、
中村東蔵、中村魁春
・早稲田大学演劇研究会『走れメルス 少女の唇からはダイナマイト!』2023年6月15日~19日@早稲田大学大隈講堂裏劇研アトリエ
脚本:野田秀樹
演出:砂糖祥伍
出演:齊藤真菜香、佐織祥伍、樺香[カコ]、
川元優輝、中孝太、能見千秋、
時吉海希、久間朝陽、池森香乃、
日南莉緒菜、安い丈博(劇団くるめるシアター)
児玉トウカ(劇団森)、高橋奏(劇団カナリ)
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