羽目(馬銜)がなければ、外せない
Iさんの元気がない。ちょっとおつきあいしようかと誘っても、のってこない。シウマイ弁当を買って帰るという。奥さんの監視がはずれると、張り合いがなくなって居心地が悪いようだ。
WHOによると、日本の感染者数が5週連続で世界一だという。日常になったとは思いませんが、知人の感染を耳にすることも多い。Iさんの奥さんもそのひとりになったという。
奥さんがお孫さんの家に行っているあいだに、学校で感染して発症、濃厚接触で足止めになった。その間に、奥さんもポジティブの結果がでた。これは仕方ありませんよね。幸い、熱はたいしたことがない、みんな軽症だから心配ないとIさんにLINEがきた。
結果、Iさんはひとり取り残されたかたちで、10日間の単身住まいになったという。
この2年半ほどは、「あなたはいいけれど、孫にうつしたらどうするの」という正論のもと、厳しい監視下におかれている。それでも「今日は居ないから、早めに家に帰ってればわからない」と彼のお誘いが何度もあった。そう、遠心力をおさえきれない。
こんな状況になって、奥さんやご家族はIさんのことなど眼中にない。羽目をはずすなら今、店と時間とヒトを選べばリスクは下げられる。どう?元気出して、と誘ってものってきません。
「羽目を外す」は、「馬銜(はみ)」=馬の口にくわえさせる金具で手綱をつけて馬をコントロールする、これが語源だそうです。奥さんの手綱がはなれている今、チャンスですよね。
もちろん、奥さんやお孫さん家族の容態が心配なのは当然でしょう。それ以上に、馬銜がない、手綱でつながってない、この不安と張り合いのなさが彼の今の心持ち、そんな感じです。そういえば、片時もスマホを離さない。つながってこその家族、そうだとは思いますが。
今日はシウマイ弁当、明日はコンビニ、土日は卵焼きと冷凍ギョーザ。ビール1本じゃ足りないからコンビニ赤ワインをつけてと、手帳の10日間を埋めていました。そう、馬銜がなければ、外せない。