
☆#127『運命の恋をかなえるスタンダール』水野敬也
これまた、良い本であった。☆#107『夢をかなえるゾウ』ではガネーシャだったが、本書ではスタンダールである。前著では男に、本書では女に、教えを授ける。
本書はガネーシャの時より更にレベルアップしている。仕掛けが綿密になっている。作品構造として面白い。ガネーシャの方は言ってみれば、「教えを小説化した」とか「マンガで読む自己啓発」いった感じだっただが、本書は小説そのものとしても厚みや彩りがある。
もっとも今時仕様で、フォントを突然大きくしたりとか、()内モノローグが饒舌すぎるなど、まあ軽薄な部分はあるので、私なんかは最初の内こそちょっと引いたが、話が進むにつれて内容がどんどん濃くなっていくので、全体に見て全然許せた。
またもう一点の優れていると思える理由は、本書が他者との関係を扱っているからだ。ガネーシャの方はテーマは「自分」だったが、本書は「自分、そして他者」となっている。
より進化している。
この人は本当に分かっているなあとつくづく思う。
・見えざる存在が教えてくれるということ、
・幸せを獲得するにはしっかりとした手順があること、
・外形にまで達する内的挑戦は必ず現実的成果を生むこと、
・小我の囚われを捨て相手の利益を考えろということ、
最後は独り立ちしなければいけないこと…つくづくその通りなのである。
自己啓発とスピリチュアルが程よく混合し、そこに大いに余裕と笑いを交える辺り、著者の人間理解は本当に奥深く、そして確かな筋道を持っていると思わされる。
現代版、カスタネダと言った所だろうか。でも私的には、カスタネダよりはるかにこっちの方が上である。なぜなら地に足がついているから。
久しぶりに恋愛にまつわるものを読み、何となく甘酢っぱい気持ちになった。恋愛なんてものが、その昔あったねえ…としみじみする。不思議なものである、恋愛とは。
そして最後は泣いた。泣かせに来るのではない、心からの涙だった。
そこも、本書がガネーシャより進化していると思わせる所である。
ガネーシャが現れ、そして消えていったことは「まあ、この小説はそういう仕組みなんで」ということでほとんど不問に処されていたが、本作ではスタンダールがなぜ現れ、そして去ったのかという点に、とても良いものが込められている。ネタバレになるからそこは勿論言わないが。
恋愛したい人も、もうしない人も、読めば自分を輝かせたくなるに違いない本である。