水深800メートルのシューベルト|第468話
あきらかに、映画館のほの暗い中で青白い光を浴びて笑みを浮かべていたメリンダとは、別の人間のようだった。
「十歳の私に……、あんたの親父に汚いものを口に押し付けてきて……、それなのにあの女は……、私が寝盗っただなんて言いやがったんだよ」
彼女の目は憎しみに溢れていた。
「それなのに、今でもあいつの生活の面倒を見なきゃならない。こんな商売をしてね」
彼女は、ピザを口に詰め込むと、横を向いて、乱暴に咀嚼していた。僕は、恐る恐る尋ねた。
「家を出るなんて、考えたことはないの?」
僕だったら、とてもそんなことはできないだろうと思いながらも、彼女がママを嫌っているのなら、どうしてそうしないのだろうかと疑問が湧いた。