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水深800メートルのシューベルト|第1198話

その旋律は電子で作られた音とは思えない程自然に、僕の心に溶け込んできた。指の動きはたどたどしく、彼は一生懸命に、次の鍵盤を目で追ってはそっと確かめるように触れていた。それはいつかの訓練で行った反射神経を鍛えるもののように見えるが、そこから発せられるメロディーは、穏やかで、静かで、心の棘をふわりとした綿へと変えてゆくようなものだった。


 一曲弾き終えると、ロバートはキッと結んでいた唇を緩めてにやりとした。自分の予想以上の出来に満足しているようだった。
「ほら見ろ。初めて弾いたのに一度も間違えなかったぜ。やっぱり才能だよな」


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