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水深800メートルのシューベルト|第805話
「言うって誰にだよ。どうせ、ダカーリが広めているんだろう? あいつの口を封じるなんて、無理な相談だよ」(そう僕は言った。)
「でも……」
彼女に見られていると、胸がチクチクと痛んだ。やっぱりここに来るんじゃなかった。ベッドで寝たふりをしていれば良かったんだ。そう思った。
「放っておいてくれ」
僕は、やけになって再び速度を上げた。もう、トリーシャはついて来なかった。何人かを追い抜き、彼女が見えなくなる位置まで差をつけると、そこでやっとスピードを緩めた。トラックの内側では、腕立て伏せや腹筋運動、そしてテーピングをしている訓練生がいた。彼らは僕を見て顔をしかめているようだった。いいんだ。彼らとは元々八週間だけのつき合い。八週間だけ……。後少し……。トリーシャとも……。