誰もいないかもと思うと、かえって僕の気持ちは落ち着き、ドアを拳の骨で二回叩いた。長く間が空いて「誰?」という怯えた声が聞こえてきて、僕は背中を震わせた。この声はメリンダだと確信した。
「僕だよ、アシェル。何かあったの? おばさんもいるの?」
少しの間の後、「鍵は開いているわ、来て」と返答があった。
「こ、こんばんは」
そう言いながら、自分でも間の抜けた調子の声だと意識すると、恥ずかしくなった。電気は消えたままだった。
「アシェル、本当にアシェルなの?」
震えるような声が奥から聞こえてきた。
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