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水深800メートルのシューベルト|第796話

その時、足をついた痛みに表情を歪ませていた。しかし、すぐに無理に作り笑いをして言った。


「ほら、落とされた俺の辛さがわかったか? おまけに訓練延長になったんだ……。全部お前のせいだ」
「わざとじゃないって言ってるだろ! しつこいな」
「いや、わざとだ。実際、今だって俺の足を引っ張っただろう」
 彼は引っ張られた方の右足を上げて見せようとしたが、痛む左足に体重がかかったせいで、苦痛に顔を歪めていた。


「いい加減に認めろよ。極悪人ウィキッドのくせに。往生際が悪いぞ」
 このしつこさにすっかり嫌気がさして、どうでもいい気分になってきた。


「ああ、そうだよ。わざとだよ。お前なんか、落ちて良かったんだ」
 嘘をついている感覚は、口にすると煙のように消え、本当になったようだった。

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