水深800メートルのシューベルト|第1083話
「うるさいなあ! 声を落とせよ。うるさいんだよ。ここでこんな大声を出す男は潜水艦に必要ない。貴重な酸素が勿体ない」
ロバートの瞳孔は瞬時に大きく開き、そのこめかみには血管が浮き出ていた。僕は恐怖に支配されたようで動けなくなった。空気も周囲から逃げて行ったようだ。言い過ぎたことを後悔したが、遅かった。
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あれほど怒りと喜び、どうしようもない悲しみに恐怖、そういったものが現れては四分五裂して別のものに取って代わるを繰り返していた心は、どこかへ彷徨った挙句、ひとつの重力星の元に吸い込まれて二度とそこから脱出できなくなっていったように、深い所で再生を待っているようだった。