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水深800メートルのシューベルト|第39話

 部屋の中は暗かった。入り口に冷蔵庫とテーブルが両脇にあることを覚えていた僕は、それらにぶつからないように手探りで抜けて奥に座れる場所を探すことにした。右足が柔らかい物に触れて思わず立ち止まる。テーブルの下に丸くなって座り込んでいる人影が目に入って、あっと声をあげた。
 思わず落としそうになったテレビディナーの箱をテーブルの上に置くと、丸い人影の背中は微かに膨らみ、そこから首がもたげてきて僕の方を向いた。
「あんた、あいつの息子なの?」
 カールした髪の毛に覆われた中から、憎々しげな声が聞こえた――女の子の声だった。手を伸ばし、指先を扉の向こうを指した。

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