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水深800メートルのシューベルト|第45話
エンジン音はますます近くなり、大きな水の音にもかき消されなくなった。ママだ、気が変わって僕を一緒に仕事に連れて行ってくれることになったのかもしれない。そんなありえない空想をしながら、ホースの上下を何度も入れ替えながら、中の汚れをこすり落としていた。
「終わった? それじゃ外に出るよ」
言われて通りやったのに、メリンダは不機嫌で、もはやホースの洗い具合には興味を無くしてしまったようだった。無愛想な様子で手を引っぱってきた。僕は、もう一方の手でテレビディナーの箱に手を入れ、豆やコーンを掴むと口に放り込んだ。
鉄の扉を出ると、ママの車とは違う赤くて後ろに羽があるスポーツカーが停まっていた。僕はがっかりしながら手についたソースを舐めた。