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水深800メートルのシューベルト|第433話
爺さんの「店にいると酔っ払いやたまに警官も来るから、外で待っていた方がいい」という助言に従って、僕らは店の外にある植え込みの一角で、寒さに震えながら、彼女を待つことにした
「寒いから、ジェシカっていう女じゃなくても、最初に来た女にしておこうぜ」
バーナードがそう提案すると、メイソンも同意のしるしに頷いた。
その時、遠くから小柄な女性らしき影が近づいてきた。大きくなる影は、だんだんと店の照明に照らされていくにつれ、輪郭がくっきりとしてきた。まず目についたのは、白いコートだった。その裾を地面につけないようにするためなのか、ポケットに突っ込んだ手を少し持ち上げているようだった。そして、帽子からはみ出た金の髪。それらを見て僕は、この前見た彼女だという思いが強くなった。