兵曹長は、急いでいるところを邪魔された不満を一瞬爆発させてから諦めたようにため息をついた。オレンジ色の照明に照らされた彼の顔は、精神も肝臓も悪く、そのせいか、意地悪でわざとぶつかって怒鳴ってきたような気がする。
「申し訳ありません」
階級が上の相手では、素直に謝るしかなかった。彼は、痛めたのか足を気にして、下を向いて悪態を呟いてから顔を上げ、闇の奥から沸き上がったような窪んだ眼をこちらに向けてきた。
「クラムジー君。一体君はどこに行こうとしていたのかね? この上り坂を登って。人と行く方向が逆だぞ」
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