水深800メートルのシューベルト|第1111話
「本当は、懐中電灯用にとっておいた方が良いのですが、これくらいいいでしょう。会話は禁止されてしまいましので、こういうのでコミュニケーションを取れるかもしれませんよ。暗号みたいにね」
つまり、これなら酸素を消費せずに会話のようにできるという意味なのだろう。
「これで会話をするならホワイトボードの方が早いですよ。ピアノなんて単なる気晴らしです。意味のないものですよ」
「では、どうして乾電池を外したピアノを持ち込んでいるのですか?」
どう答えていいものかと思案していると、彼は続けて言った。
「本当に意味のないものを、わざわざ持ち込むとは思えませんねえ」