水深800メートルのシューベルト|第1086話
「いや、僕が悪かったんだよ。つい挑発するような事を言ってしまったんだと思う」
まだぼんやりとしてかすみがかかった頭の中から、記憶の糸をたぐってみる。そもそも彼とぶつかって謝って通り過ぎればいいものを、なぜか苛立ちが抑えられなかったんだ。冷静になってみると、いつも避け続けて怒らせないように気をつけていた相手にどうして噛みつくような真似をしたのか不思議だった。後で、謝ろう、そう思った。
「なあ、セペタ。僕、寝ている間に、変な事を言わなかったか?」
彼は両手を広げ、肩をそびやかした。