メイソンたちが見えなくなる場所まで来ると、彼女はすぐに手を振りほどいて、先に早足で進んだ。僕は、ヒールで石畳をカツカツと鳴らす彼女を見失わないようについて行った。
十五分ほど歩いたろうか。暗闇の中に、古ぼけたコンクリート製の大きな建物が姿を現してきた。建物の一部だけ、小さな塔のように突き出ていて、塗装が剥げた赤褐色で三角の屋根が、ライトに照らし出されていた。その下には赤い背景に白で『MOTEL』の文字があった。
ジェシカは、車の並ぶ敷地に入ると、勝手を知ったように鉄の階段の陰になっている窓を覗き込み、向こうにいるらしい人と、何か言葉を交わしていた。
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