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水深800メートルのシューベルト|第831話

「僕が悪いんです。でも、お婆ちゃんをひとりにしておけなかった」(僕はそう言った。)
 ママにはゲイルさんがいる、それに、一旦ママの申し出を断ったら、ずっと許さないだろうというのは、想像できた。彼女は、一度愛の対象に噛まれたと思い込むと、きっと憎み続ける。パパに対しても、僕を送って言った時も憎んでいるような口ぶりだったから。ゲイルさんは、首を振ると口を開いた。


「ジュリアは、きっと君のことを忘れていなかった。彼女が亡くなる前にも『私は良い母親になれなかった』と言っていた。過去形で言ったから、ちょっと変だと思ったが、きっと君のことを指していると思った。死ぬ決意をして、亡くなった娘やジョーのことを言った可能性もあるが、よく考えるとずっと前にも同じことを言っていたから、やっぱり君を心配していたんだと思う」

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