水深800メートルのシューベルト|第403話
弾かれたように先ほど通り過ぎた木造の建物の方へ歩き出したが、胃のムカつきと苛立ちが口の奥に溜まって、すぐに立ち止まった。
「どうした、早く行けよ。女に勘づかれるぞ」
後ろから、バーナードの囁きが聞こえる。僕は、ふらつきながら二三歩、ログハウスの方に進んだ。
その店先に女の人が立っていた。初めは店のライトでぼんやりとしか見えなかったが、目を凝らしてみると、女の人というより女の子に見えた。金髪でカールのほどけかかった髪と済んだ空色の目は、どぎつく塗られた深紅の唇とはちぐはぐな印象だった。背は低く、大人の女の人とは違う、足を広げた立ち方をしていた。もしかしたら、僕らと大して歳が違わないのかもしれない。