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水深800メートルのシューベルト|第921話

「今はひとりじゃないよ。結婚したんだ。自分の子どももいる」
「それも聞いていたわ」


 彼女は微笑んで僕の手を自分の頬に当てた。マシュマロみたいな感触が手の甲に伝わってきた。
「ゲイルさんに相談したの。一度でいいからアシェルに会って謝りたいって。彼は、あなたの今の生活を邪魔しないならと言って住所を教えてくれたわ。あ、彼に連絡するね。今日こっちへ来るはずだから」


 そう言って、手を離して横を向き、公園の外をぐるりと見渡してスマホを取り出すと、何やらメッセージを打ち込んでいた。ゲイルさんが休暇中に家に来ると言っていたのはそういう意味だったのか。一言も前もって教えてくれなかったのが不思議だった。
   

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