前の足側を運んでいた男が、自分だけ先にラッタルを降りて両手を広げていた。僕は担架をラッタルに乗せ、ゆっくり滑らせて降ろそうと、ロープを持ち、担架を押し出しながら、少しずつ手元を緩めた。担架は人を載せるとずしりとした重みがあった。グローブに食い込む縄は容赦なく手の皮を引き剝がしにかかっているようだ。落とさないよう足を踏ん張っているうちに、マスクのどこからか息が漏れているのか、シールドが息で曇って拭いたくなった。しかし、それはできない相談だった。早く降りろ、下に着け、受け取ってくれと願いながら、ロープを持つ手の力具合を調節していた。
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