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水深800メートルのシューベルト|第310話

 今まで体験したことのないスピードと揺れだった。僕は、バーナードに話しかけるのを諦め、足を広げて踏ん張り、手を胸の前でギュッと握りしめた。


 助手席から上がっていた煙が止むと共に、ブライアントの冷静な声が爆音に混じって聞こえてきた。それが、何を言っているのかわからず、何度も大声で聞き返した。


「こっち向いて言ってくれる? 聞こえないよ」
「だから、アシェル! お前ビビッてないか? 車に乗ったことねえのかよ」


 それには答えず、「メイソン、サンフランシスコに行くの?」と、ルームミラーに映るメイソンの顔を覗き込もうとした。

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