水深800メートルのシューベルト|第1076話
「な、なんだよ。君こそ気をつけろよ。こっちは通路だ。優先だ」
「お前、急に偉そうにしやがって。でも、舌が回ってないぜ。まだ寝ぼけているんじゃないのか?」
ゆっくりと壁から体を起こす僕の頭に彼の声が響いて、ムカムカと胃の底から何かが込み上げてきた。腹を押さえてそれをやり過ごそうとする。
「フラフラだぞ。お前も寝てねえのか?」
ロバートは訊いた。
「いや、寝たよ。処方を貰って。まだ薬が頭に残って、ぼんやりしているだけだよ。じきに治る。放っておいてくれよ。これから勤務なんだから」
彼に、怒りに任せたような開放感に導かれるまま言葉をぶつけると、その緑の目は少し収縮したようになった。