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水深800メートルのシューベルト|第187話

 そう言うと、(オリビアさんは)ブランケットを手で引っ張り上げるようにして、ため息をついた。


「私も、この歳になると、私たちによくしてくださる神様が段々近くにいらっしゃるように思えてねえ。それはとても素晴らしいことのように思えるのよ」
「神様の近くにいるといい事があるの?」


 オリビアさんはまどろんだ顔に笑みを浮かべた。
「そうよ。お金はあればなくなるし、美味しいものを食べても幸せなのはその一瞬だけ。親しい人もやがていなくなるけれども、神様だけはいつも同じ場所にいて、いなくならないの。そして、怖いと思っていることや悲しいことも、最後にはこれで良かったんだと思えるようにして下さるの。どうやってそうなるのかは、私の頭では理解できないんだけど、きっとそうなの。神様が近くなるということは、愛情深いあのお方が、一層愛情深くなる――いいえ、きっとあの方は慈悲深い方だから、初めから愛を惜しまないわね――私たちの方が、その愛や優しさに気づくようになるというか、ありがたみがわかるようになって幸せな気分になるの」

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