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うにっき帳 vol.14 |自分史編|アッチッチ、帰ろ!――茶碗蒸し一杯で家族崩壊!(4)

はじめに

こんにちは。吉村うにうにです。「うにっき帳」のvol.14を掲載します。
「うにっき帳」は日記と銘打っていますが、①日記編 ②語彙増量編 ③自分史編の三部のいずれかを取り上げます。

今回は、自分史編で。アッチッチ、帰ろ!――茶碗蒸し一杯で家族崩壊!のt続きで最終回です。これまでのお話はこちら


では、始めます

ちなみに、本文は常体で書いております。また、日付は自分史編では、エピソードが生じたと思われる日です。

二〇〇〇年八月十五日頃 アッチッチ、帰ろ!――茶碗蒸し一杯で家族崩壊!(4)

 伯父は勿論、母もそれを追うとはしなかった。こうなると、親から「この子は優しい」と洗脳され続けた結果、怒りを表出できず、いつも周囲の顔色を窺って生きてきた私しか、黒豚夫妻を宥められる人間が居ない。仕方なく、仏間を出て姉達と話をしようと思った。

 檜の玄関で三人が靴を履いている時に、追いつくことができた。
「あの……今日は……」
 そこから言葉が出てこなかった。ほとんど話した事がなく、しかも先述したような容貌で威圧感のある黒豚と話すのは気が引けたので、姉に声をかけてみたが、何と言って良いのかわからなかった。気弱で、争い事になりそうになると、いつも謝るか逃げるかしかしてこなかった私に、何を言う資格があるのだろう? 私は、さっきの黒豚の発言がちょっとした弾みか冗談ということにして、何もなかったかのように、三人が元の席に戻ることを切望していた。元々、気が短く、私を怯えさせていた姉と、その彼女をして、怖いと言わせるほどの上を行く短気な夫、ちょっと怒っただけだと言えば、この後の母の怒りも最小限で済み、許してくれるのでは? そう思ったのだ。

 しかし、現実は冷酷だった。
「はい、これ!」
 そう言うと、姉は一万円札二枚を私に突き出した。
「え?」
「今日の弁当代」

 頭の中で家族の形が崩壊していく音が聞こえるようだった。結婚しても、頻繁に母と姉夫婦は行き来をし、母は孫を可愛がり、黒豚にも気遣っていた。確か、彼の課長昇進に五十万を包んだと聞いた事もある。その母と姉夫婦が……。冗談だよな、と思って突っ立っていると、「ほら」と言って彼女は無理やり私の手に二万円を握らせた。

 ガラガラと横開きの戸が閉まる音がした。姉達は去ってしまった。母に何て言おうと考えたが、正直に言うしかないとすぐに思い直した。この夜の仲違いは簡単には戻らない、そんな予感がした。そして、それは的中した。

 

 母は死ぬまで姉夫妻を許さず、生涯会う事もなかった。
                      (おわり)

さいごに

いかがだったでしょうか。ちょっと癖の強いキャラが出てきて、ドン引きだったかもしれません。思い出しながら書いていると、あの時の周囲の状況や自分の気持ちが整理されていくような気がします。勿論、記憶は正確ではないし、思い出したものも、変容しているかもしれません。ですが、できるだけあるがままを書いてみようと思います。そこから何か面白いものが生まれるかもしれませんので、気が向いたときにでもお付き合いいただけると幸いです。

ここまで読んで下さり、ありがとうございました。

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