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水深800メートルのシューベルト|第1107話
(53)
行くように言われてもいないが、様子を見に行った倉庫からは仄暗い光が漏れていた。僕はハッチから顔を覗かせると、無言でテーブルに座っているハドソン大尉に敬礼をした。
「大きな声でなければ、会話を許可するよ」
彼は微笑んで、手で狭い房室に招き入れてくれた。すぐにポットからコーヒーを注ぎ、カップを渡してきた。
「温かいコーヒーが飲めるのも最後かもしれないからねえ。いや、原子炉が復旧するか救援が来るまでと言う意味で、ですよ」
彼は、目尻に皺を寄せて言った。しかし、その透き通る目には光を宿しておらず、海軍のキャリアとしての生も人生も諦めているように感じた。