「深度三百メートル。メインベント、フラッドバルブ共に閉鎖しています」
コンソール前に座っている乗組員の報告を聞いて、士官のひとりが怒ったように指示を出した。
「トリムおかしいぞ。少し右に傾いている。計器を確認しろ。左右のトリムタンク調整だ」
「了解」
乗組員が制御盤のスイッチを操作すると、床が左側に動いたと思ったが、それはそう調整していると知っているからかもしれない。暗示ってやつだ。
僕と同期で先に一等水兵に上がった男が、隣から肘で突いて小声で言った。
「アシェル珍しいな。発令所に見物に来るなんて」
「ああ、兵曹長に呼ばれたんだ」
正直に答えた。
第983話へ戻る 第985話へつづく
第1話に戻る