見出し画像

水深800メートルのシューベルト|第984話

「深度三百メートル。メインベント、フラッドバルブ共に閉鎖しています」
 コンソール前に座っている乗組員の報告を聞いて、士官のひとりが怒ったように指示を出した。
「トリムおかしいぞ。少し右に傾いている。計器を確認しろ。左右のトリムタンク調整だ」
「了解」


 乗組員が制御盤のスイッチを操作すると、床が左側に動いたと思ったが、それはそう調整していると知っているからかもしれない。暗示ってやつだ。
 僕と同期で先に一等水兵に上がった男が、隣から肘で突いて小声で言った。


「アシェル珍しいな。発令所に見物に来るなんて」
「ああ、兵曹長に呼ばれたんだ」
 正直に答えた。


   第983話へ戻る 第985話へつづく
       
          第1話に戻る


いいなと思ったら応援しよう!