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水深800メートルのシューベルト|第1153話

 僕は、無礼な男の顔を睨みつけていた。死者の前でなんという事を! するとロバートは嘲笑するような口調でつづけた。


「おい、やる気か、アシェル? だが、今度過呼吸を起こしても診察してくれるドクターはもういないんだぞ。お前は見捨てられ、裏切られたんだ! 先に勝手に逝っちまうってのは、そういう意味だ。わかったのか、ユースレス?」


 僕は、彼から目を逸らした。それは、ロバートが怖かったからではなかった。もう、陸で僕の行く末を心配して、海ではそれとなく庇ってくれた人は、もう存在しないという事実がお腹の中から悲しみと共に膨らんできたからだった。


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