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水深800メートルのシューベルト|第15話
「初めて君に会った時から、なぜか他人のような気がしなかったんだ」
僕は気分に流されるまま話を続けたくなる。言葉を選ぶことを放棄し、浮かんだ
心に忠実に言葉に乗せようという境地に至る。そう、今の言葉は嘘じゃない。気分は高揚しながらも、彼の顔を見ていると手のひらが汗ばんでくる。
「その緑の瞳だと思っていた。そいつは、パパの家のあった森を思い出すからねえ。でも、それだけじゃない。君の絶望したその眼は、パパの眼と同じなんだ。絶望を誤魔化すかのように、コンプレックスの裏返すかのように、いつも怒っている振る舞いもね」
「何だと手前、俺様が一体何に絶望しているって言うんだ!」
ロバートは吐き捨てるように言い、掴みかかろうとする恰好だけを作った。