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水深800メートルのシューベルト|第347話

「最近、朝早く目が覚めるんでね……。家にいてもすることはないし、軍のオフィスには居たくもないし……。土曜でもクラブスポーツの連中は来るだろう。そのキャプテンなんかと繋がりをつけておけば、誰か志願者を紹介してくれるかもしれないだろ?」


 彼は気だるそうに僕を見つめた。まだ始発のバスが来ないせいだと思った。前に軍の勤務について理路整然と説明してくれた時とは違って、話し方に力強さや自信を無くしていて、まるで病気をしているように思えた。僕がその事を指摘すると、
「ああ……、痛み止めの薬が切れて、膝が痛むんだ。おかげで目は早く覚めるし……、これで、入隊希望者が出れば報われるんだが……」
 そう言って芝生に放り出している両膝のうち、軽く曲げている右の方を指した。

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