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水深800メートルのシューベルト|第925話
「あ、ゲイルさんよ」(と、メリンダが言った。)
赤いポロシャツを着たゲイルさんが、僕が入って来たのとは反対側のフェンスにある扉をくぐって来た。軽く手を上げて近づくと、彼の後ろからアビアナと同じくらいの歳の男の子がついて来るのが見えた。父親が手を引こうとすると、大人のように扱われたいのか、その手を振り解いていた。かといって父親を拒否するような態度ではなく、ゲイルさんがコートに近づいて来るのに合わせ、金髪を額で分けて右側だけを目にかかるくらいに伸ばしたその男の子は、散歩につき合ってやっているんだぞいった風に、大股で父親の後にぴったりとついていた。