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水深800メートルのシューベルト|第709話

「では、発言してもよろしいでしょうか?」
 (トリーシャの)哀願するような声に、教官は顎をしゃくった。
「私の責任です。アシェル・スコットは巻き込まれただけです。だから、彼の除隊は行き過ぎです」
 彼女は、同情を誘うような口ぶりだったが、その眼は抵抗するように鋭かった。


「すみません、すみません。僕が悪いんです」
 僕は、彼女が教官を怒らせたのではないかとヒヤヒヤしていた。


「お前の処分はこの後決める。まずは、アシェル・スコットの番だ。お前の訓練中のやる気のなさは他の教官からも伝わっているぞ。今までは大目に見てきたが、今回のことは目を瞑るわけにはいかん。そもそも君は軍隊に向いていないのではないか? 自分でもそう思うだろ?」
 最初は厳しい調子で言っていたが、最後の方は憐れむような優しい言い方になっていた。


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