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水深800メートルのシューベルト|第1182話

 僕は、寝返りを打って腹這いになり、何気なさを装って枕の下に手を入れ、そこに忍ばせていた拳銃に触れた。もしかしたら、いよいよ救出が絶望的になると、艦内が無法地帯になるかもと思い、手に届く所に置きたかったのだ。


樹脂製フレームのシグ・ザウウェルのハンドガンは何度触ってもおもちゃのようだった。昔、射撃場で撃った鉄の銃と違って、威厳を感じない。ただ、破壊の恐ろしさだけが残る。この銃で、あいつを撃ったら……、これ以上騒ぐなら……。その考えに思わず首を振りそうになり、思わずグリップから手を放したが、彼の嘲りの声が聞こえると、再び滑らかなグリップに手を添える。


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