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水深800メートルのシューベルト|第491話

居心地の悪さに耐えきれず、熱いコーヒーを一口すすると、帰る素振りを見せた。それを合図にしたように、奥の部屋に行ったメリンダから荷物と上着を受け取り、彼女の家を出た。


 部屋の外は、陽気とじめじめとした空気が混じって肌にまとわりついていた。ドアを閉めて一緒に出て来たメリンダが、髪をかき上げて、空色の目を僕に向けた。


「タイミングが悪かったわね。嫌になった?」
 僕は黙って首を振った。部屋の中の彼女のとげとげした雰囲気より穏やかになっていて、ほっとした。

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