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水深800メートルのシューベルト|第764話

「つっかえちまうよ」
 前で持ち手の一つを担当していたフェルマンが、前のもう一人をどかせ、一人で二つの取っ手を持って後ろ向きになってハッチをくぐり抜けようとした。担架が大きく傾き、怪我人のダカーリは我慢できないといった様子で悲鳴をあげた。


「お、落ちる、落ちるって。やめろ!」
 彼は体を起こそうとしたので、支えるのが難しくなってきた。僕は「一旦下に置こう」と提案し、皆、そのとおりに腕を下ろした。


「お前たち、火災現場でこんなことをしていたら戦死か戦傷死だぞ。死因は焼死か一酸化炭素中毒だな。バトルステーション21も全員不合格だ」
 訓練中に口をもう挟まないと決意したのか、しばらく押し黙っていた教官だったが、うんざりしたように担架を指して言った。


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