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水深800メートルのシューベルト|第770話
突然、上からシューという音と共に真っ白な煙が周囲の空間を覆った。僕は何が起きたかわからず「うわっ!」と叫んで体が撥ねるようになり、真後ろにあるハッチの開口部によろめいて倒れそうになった。その瞬間、ロープを放しそうになっていることを本能のどこかで感じ取り、危ないと思って、思い切りロープを引っ張った。ラッタルの途中にある担架だけは落としてはならないと、もう一人の自分が叫んだのだ。
ロープはピンと伸びた状態で持つ手に激しい抵抗の力が加わったので、目一杯力を込めて後ろへ引いて下向きの力に対抗した。すると突然、抵抗が急に軽くなり、空の何かを代わりに握らされたような感覚で後ろに弾き飛ばされるみたいになった。