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水深800メートルのシューベルト|第497話

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 四月に入り、春学期が始まると、僕は効率よく単位を取りに学校へ行く、普通の高校生に戻った。メリンダのことは、短い春休みの間は、このままのいいのかという思いと厄介ごとに巻き込まれたくない気持ちのせめぎ合いに悩まされたが、学校の敷地に植えられたジャガランの木が咲かせる紫色の花が濃くなるにつれて、彼女への思いも薄れていくようだった。彼女からのメールはあまり来なかったが、時折、「眠れない」という愚痴や、「学校楽しい? 行ってる?」という質問が僕のスマホを送られていた。僕は、メールが来た時だけは、彼女が辛い目に遭っているかもと胸が痛んだが、「羊を数えようよ」とか「僕は行っているけれど、メイソンが来ていない」などと、あたりさわりのない返信をしていた。

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