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水深800メートルのシューベルト|第437話

 彼女の言う通りだと思ったが、女の子と二人きりになる気まずさと、メイソンたちがすぐ傍にいるという不安のどちらがましだろうかと考えた。何十分か後にはこの女の人と……。そう思うだけで、心臓がバクバクと飛び出しそうになった。いや、ホテルでお金だけ渡してしまえばいい。でも、もしメイソンに感想を聞かれたら? でも、彼らに「行為をしろ」と命じられているわけでもない。頭の中で色々な考えが渦巻いていると、ジェシカが「行くよ、ほら」と手を引っ張ってきた。


 バーナードは背後から口笛を吹いて「アシェル、頑張れよ」とからかいの言葉をかけてきた。
 僕は、下を向いたまま、彼女の目を見ないようにして歩き出した。

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