水深800メートルのシューベルト|第1056話
弱気な発言に、どんな表情をしているのか気になって再び首を伸ばしてみた。大佐は下を向いて両手で顔を覆っていた。ついこの間の揺るぎない信念に支えられて泰然とし態度を取っていた人と同一人物とは思えなかった。原子炉のトラブルが相当の心理的ダメージを与えているのかもしれない。
「そうは思いませんよ。大佐は信頼されています。ここで一つ提案があるのですが」
ゲイル先生は話を整理するつもりなのか、少し黙ってから、再び口を開いた。
「診断書を書くので、上陸したら向こうの精神科医の診察を受けてはいかがでしょう? その事実は私しか知らないので、艦長の経歴に傷はつきません。パースに着くまで発熱か疲労の蓄積という事にして、副艦長に指揮を任されてはいかがでしょう?」