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水深800メートルのシューベルト|第652話

「いいんです。チームにいて、脅しに関わっていたのは事実ですし、二人が死んだのも……」
 僕は投げ遣りな気分で言った。


「そう言うな。責めるつもりで言ったんじゃない」
 ラスウェルさんは、悪いことをした生徒に言い聞かせるような先生の口調だった。
「あの手の女性には『自分が損をしたくない』と思わせなければならなかったんだ。これで、彼女が君の家賃を取り上げるようなことにはならないと思うよ」


 本当にそうだろうか? 彼は無罪になった僕を、心の底では許していないのかの知れない、そう思えるほど彼の口調は穏やかだった。
「僕はこれからどうしたらいんでしょう?」
 自分が、この事件で何も感じていないわけじゃない、その気持ちをうまく言えずに恥ずかしくなった。

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