見出し画像

水深800メートルのシューベルト|第350話

「なあ、坊主ボーイ。アデリーペンギンって知っているか?」
 彼は手で、縦長の動物の形を作ってみせた。


「そのペンギンは、群れて崖の上に立って、お互いに押し合うんだ。こんな風に」
 ナージフさんはゆっくり立ち上がると、お尻で僕を押してきた。


「そこが崖の境界で、そこから先にはみ出ると、数十メートル下の海に真っ逆さまだ」
 彼は見えない線を描いてみせた。


「落ちたら危ないね」
 昨日のマーシャルズビーチ手前にある崖を想像した。あれよりもっと高い崖で、しかも下に海があったら……。

     第349話へ戻る 第351話へつづく

いいなと思ったら応援しよう!