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水深800メートルのシューベルト|第314話

 行き先がわかって安心してくると、車が急加速したり、ブレーキをかけたりして、体が揺らされても慌てなくなってきた。メイソンも余裕が出てきたのか、シートにゆったりともたれかかり、ブライアントにくわえさせられたパイプをくゆらせている。生木を焼いたような匂いにうんざりしていたが、それもビーチに着くまでの辛抱だと思って何も言わなかった。 


 橋が終わりに差しかかり、遠くにビルが立ち並ぶのが見えてきた。前方は四車線とも車が列を成して詰まっていた。ここでメイソンはカーレースのように走行するのを諦め、背もたれを少し倒して、パイプをゆったりと味わっていた。
「チッ、せっかく調子が出てきたのに」


「ゴールデンゲートブリッジに行けば、また走れるさ」
 ブライアントが慰めるように言った。

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